日本の飼料産業の今後についての考察 米国の飼料産業から受ける示唆
瀬良英介
飼料・畜産コラムニスト
(アメリカ大豆協会名誉参事)
ステップアップ養豚・養鶏セミナー2001 2001/07
養豚・養鶏ステップアップセミナー2001講演録併載論文
ピッグ・ジャーナル誌2001年7月号掲載論文
本論文は上記以外に、今秋、アメリカ大豆協会(ASA)から発行した拙稿「乳牛、肉牛、家畜用飼料原料としてのソイハル(大豆の皮)の紹介と若干の考察」に追加論文として掲載したものである。
日本の飼料産業の将来が決して暗いものではないと信じる筆者の考えを米国の例や観察を通して述べたものであるが、発表後、関係業界などの間で話題になり、社内研修会や顧客配布用に増し刷り要請が多く、また、大學講座での使用要請などもあったので、御参考までにASAホームページ載せることにした。
(A4版で全11ページ) 瀬良 |
はじめに
筆者は、日本と米国の飼料・畜産産業を約45年間それなりに見てきた。それは、清里(キープ協会故ポール・ラッシュ博士)での実習に始まり、前クローバー乳業の重役(故佐々木三郎氏)の助けと理解を通しての女満別(故永井栄氏)と興部(故小林政吉氏)での酪農実習、アイオワ州立大学の学生時代、帰国後のキープ高冷地実験農場経営と教鞭、イリノイ州のゴールデンオーク農場(場長マービン・ポールソン氏と所有者故ロバート・クラウン氏)においての職員時代、米国農務省外郭団体(アメリカ大豆協会)の家畜栄養担当として母国日本への赴任、極東アジア地域の兼任として韓国、及び、台湾などで仕事をした時代などを通してである。
引退した現在も、好きな酪農、畜産、飼料、大豆などの分野の勉強は、出来る範囲で続けているので、今回もアニマル・メディア社の御配慮により拙稿を併載して下さることになった。
日本の飼料産業についての予測違い
欧米の多くの経済アナリストは、日本の配合混合飼料産業がかなり早い速度で衰退すると1980年代半ばから予測していた。その当時の推測の中には、2000年における日本の配合混合飼料生産量が1000万トンを切るであろうと指摘していたものもあった。中には、1995年の時点で1200万トンに下がることを指摘していた報告もあった。
しかし、実績はどうであったろう。2000年暦年の総生産実績量は、2414万1707トンで前年対比99.2であったから(飼料日報社飼料統計2001より)、結論としては、アナリストの予測の全てが外れていたことになる。面白いことには、2000年の実績量より多めの数量を予測として出していた報告例は、筆者が知る限り過去に一件も存在しない。
この間、筆者はアメリカ大豆協会家畜栄養担当常務として、大豆ミール使用量の将来を考えねばならなかった。1980年代後半になると、経済が右肩上がりでなくなることが色々な経済指数と肌で感じられる実感から予測出来たので、1995年から2000年にかけての総予測飼料生産量を横ばいの現状維持にし、その予測飼料生産量中の大豆ミールの設計割合が諸々の理由から上昇すると推測した。したがって、予測飼料生産量の減少分を大豆ミールの設計割合の予測上昇分で補うことにより、大豆ミールの飼料への総予測使用量を横ばいにした。
それを「数字の遊び」であると言われればそれまでであるが、本セミナーでもお馴染の前川勝文氏共々考え抜いた結果である。米国本部の理事に日本の飼料畜産産業や大豆市場の現状と将来に関しての説明責任(アカウンタビリティ)を負う担当者としては、大豆ミールの総予測使用量の数字が少しでも下がることを報告することには若干の抵抗があった。また、永年、家畜栄養担当技術者として仕事をしてきた者として、明らかに嘘になるような報告と予想をすることは、己の自尊心が許さなかった。その当時、油脂の専門家として国際的に高名であり、また、個人的にも信頼し尊敬していたラース・ウィーダーマン氏が日本代表であったことは幸いした。彼の経験豊かでまともな人間性と信用ある技術者としての示唆は、大変な救いであった。
では、大豆ミールの2000年暦年における実績はどうであったろう。配合割合は12.51%で、総使用実績量は302万2818トンであったから、筆者らが算出していた、大豆ミールの年間使用量300万トンを配合割合の上昇分によって維持する、という考え方は結果として貫けていたことになる。自画自賛する積りは毛頭無いが、技術者として多角度から考えた上での直感に頼ったことは良かったと思っている。
ここで、日本の飼料産業の将来を、更に数字を使って予測する積りはない。第一線から引退し、個人的な理由から業界とのお付き合いも最低限にし、時折の講演や執筆程度しか維持していない者としては、余計なことを言うべきではない。しかし、筆者は、日本の飼料産業が、今後もやり方如何によっては、相当な強さを発揮する産業であると思っている。
加えて、小泉総理と新内閣への期待が大きいことは事実であるが、一般的な社会状況は、まだマイナス思考と思えるほどの慎重な考え方が主流である。慎重であること自体、悪いことではない。しかし、自己の能力や自社の能力を過小評価しすぎる必要も無い。恐らく、この辺りの目覚めが進むにつれ、今後、劇的な変化が起きるであろう。それには間違いなく軋みと今以上の苦痛を伴なう。その反面、驚くほどの新しい開発と発展が起きるであろうと信じている。であるから、陰ながらの応援を込めて、筆者の考えの極一端を本論に書き加えることにした。
米国の飼料産業に現在起きている変化
去年のステップアップ・セミナーに載せた拙稿で指摘したことは、米国の飼料産業に顕著に起きている合併吸収についてであった。また、米国の飼料産業界では、日本の場合と違い、農協系、商系というような分け方をしていない点も指摘した。理由としては、「株式会社」という同一条件と土俵で勝負するほうが農家にとっても株主にとってもよい、という考えが根底にある点も指摘した。
如何に変り方が顕著であるかは、今年の米国の飼料会社上位5社の順位が、去年、紹介した順位からかなり変っていることでも判る。因みに、今年の順位は、1位:ランド・オ・レーク・ファームランドLLC(ミネソタ)、2位:カーギル(ミネソタ)、3位:ピュリナミルス(ミズーリ)、4位:PMアグプロダクツ(テキサス)、5位:JDハイスケル(カリフォルニア)である(Lobo 2001より)。ランド・オ・レーク農協とファームランド農協が合併し、カーギルを抜いて一位に踊りでたのは去年秋前のことである。この上位5社で、ほぼ、3200万トンの一次飼料(プライマリー・フィード)の生産をカバーしていると考えてよい。この量は、米国で生産する一次飼料のほぼ30%に当たる。これらの合併吸収で業界が落ち着いたとは考えられないので、今後も、まだまだ変っていくだろう。
因みに、一次飼料(プライマリー・フィード)とは、個々の飼料原料を使い、最大5%混入割合のプレミックスを用いて製造する配合飼料のことを指す。1999年度の生産量は、約1億700万メトリック・トンで、産卵鶏と育雛等用に13%、ブロイラー用に33%、豚用に13%、肉牛と羊用に15%、乳牛用に13%、七面鳥用に7%とその他で約6%であった。一次飼料が、日本の配合飼料に近いタイプであると考えても間違いではないが、それ自体に手を加えて給与する場合もかなりある。突き詰めれば、日本の場合と大同小異である。また、養鶏などの巨大なインテグレーション用の飼料は、通常、サプリメントを必要としない配合飼料であるから、一次飼料のタイプが多い。
一次飼料(プライマリー・フィード)に対して、二次飼料(セカンダリー・フィード)がある。これは、数多くの飼料工場、例えば、地方に分散している小さい工場、農協のカントリー・エレベーターに併設されている飼料工場、衛星工場などが製造する飼料のことであるが、一種類かそれ以上の原料をサプリメントとして一次飼料かそれに近い配合飼料に最大15%混入して作るものである。これによって、現場での個々の畜産経営に対応するマーケッティングや蛋白質レベルなどの調整がやり易くなる。畜産経営規模が大きくなれば、一農場で扱う飼料個々のボリュームが増えるので、その農場のニーズに合わせた一次飼料が直送される。また、生産農場が、農場専用の飼料工場を建てた場合は、自社インテグレ専用の自家配合一次飼料を製造搬送する。米国農務省の推測では、二次飼料の生産量は、通常、一次飼料の10%程度であるとしているので、二次飼料の製造量は、年間約1100万メトリック・トンである。
これ以外に、とうもろこしなどの単品原料が農場のビンにも、場合によっては数年分が貯蔵されており、農場での自家配合飼料の原料に使われているものもある。そのような農場は、飼料会社からサプリメントやプレミックスなどの商品を買い、農場に設置してある小型のハンマー・ミルと混合機などで飼料を作っている。通常、そういう形態を取る畜産農場の経営は、家族経営会社で、養豚などの場合は、家畜の飼育規模は、それほど大きくはない。
米国の飼料会社の配合設計数、製造量、販売ルートなど
米国の飼料会社の配合設計数が信じがたいほど多いのは事実である。業界の平均としては、一社当り500種類から600種類ほどの配合設計を常時使っている。筆者が、近年、訪ねたいくつかの飼料会社でも大体800種類程度は扱っていた。2000年の業界一社当りの平均配合設計数が573種類、年間当り平均一工場生産能力11万2000メトリック・トン、平均稼働率70.5%という調査報告がある。また、1000種類以上の配合設計を常時使っている飼料会社がほぼ18%あり、その傾向は、西部地域に多く見られるとの指摘がある(Lobo、2001より)。これは、南西部地域に経営規模の大きい酪農、肉牛、また、養鶏などがあるために、顧客のニーズに細かく対応した飼料を製造配送する関係上、常時使用の設計数がどうしても増える。筆者が、以前にテキサスで見た飼料工場でも一日3交代で1300種類作っていた工場があった。
これが中西部であれば、500種類から800種類の設計数は珍しくないが、それは、地域の家族経営の養豚、酪農、肉牛農場などに、配合飼料のみならず、多数の、それも内容が少しづつ異なるレベルのビタミン、ミネラル、蛋白質原料などを含む製品、或いは、サプリメントを供給する為である。個々の農場経営専用の期別、種別の飼料用設計以外に、混入割合を少しづつ変え、「顧客独自のニーズ」に自分で合わせて自家配合をして貰うためのサプリメントや製品も合わせて製造する関係上、総配合設計数は増えるのである。
製造能力は、第一位のランド・オ・レークス・ファームランドLLCが89工場で年間811万メトリック・トンであるので、一工場当り9万メトリック・トンになる。因みに、カーギルは、65工場で一工場当り能力11万メトリック・トン、ピュリナ・ミルスが48工場で一工場当り能力14万メトリック・トン、PMアグプロダクツが32工場で一工場当り10万メトリック・トン、JDハイスケルは6工場で一工場当り42万メトリック・トン(Lobo、2001より)である。
米国の飼料会社上位50社では、各社の製造トン数の40%以上をディーラー扱いで販売しているのが18社あり、10%かそれ以下しかディーラーを通していないのが21社ある(Lobo, 2001より)。
ペンシルバニア州のペンフィールド社などは、社内の養鶏インテグレーションの割合が多いので、販売している飼料のほぼ90%が社内、或いは、社外の大型農場への直販である。プレミックス専門メーカーで有名なイリノイ州のムアマン社は、本来であれば、プレミックス主体の飼料形態から考えてもディーラーを使う割合が高くても当たり前であるが、ムアマン社の場合、ディーラーを通すのは、僅かに10%程度である。これは、販売を飼料のタイプからのみ考えたのでは、無理なことであるが、「卓越した」マーケッティングの維持による高い利益が、セールス・プロパーを通しての「直販」を可能にしている(私信より、瀬良)。
恐らく、どちらの販売方法が良いのかという結論は出せないであろう。双方に一長一短がある。それぞれの会社の歴史、販売地域の家畜密度や地域ごとの商習慣や人間関係が微妙に絡んで、販売方法が変る。また、飼料会社が扱っている畜種と飼料のタイプにもよるであろうし、社内でインテグレーション用の飼料を生産しているかどうかによっても変る。
米国の自家配合飼料に対しての飼料会社の葛藤と克服
日本で言うところの自家配飼料は、米国の場合、巨大なインテグレ養鶏などの内部で作る配合飼料がそれにほぼ該当する。最初、経営規模の小さかった養鶏農場は、飼料会社から配合飼料を買い、規模拡大の時代の流れの中で、自家生産か調達する原料の割合を増やす。結果としてサプリメントの購入に移行し、その後、量的には更に少ないプレミックスへと移行し、飼料会社から購入する製品の量を減らす努力をする。その延長線上にあるのが、全ての飼料原料や添加物を農場で調達し、農場専用の配合飼料を作る動きとなる。巨大な畜産、特に、養鶏養豚のインテグレが起きると、飼料製造が行き着く先は、自家配合飼料になる。
それは、一つの飼料会社が養鶏、或いは、養豚農場の中に出来たのと同じことになるが、飼料会社を経営する主体が農場側にあるところが一般飼料会社との違いである。このような一連の動きは、決して飼料会社に対しての不信感によって起きるのではなく、生産経済性の面から変っていく必然性によるものが圧倒的に多い。
上記の動きに対して、飼料会社の葛藤は、定置産業である工場の稼働率を最大にするために、生産量を出来るだけ上げて販売したいという点にある。配合飼料を100とすれば、サプリメントは、量的に配合飼料の約10〜15である。プレミックスは、配合飼料の5以下が普通であり、濃度によっては1を切る。畜産経営農場に100売っていた飼料会社の販売量が15になった場合、量に対して約7倍の利益(100÷15=6.7)を乗せられないところが一番辛いところである。米国の配合飼料の歴史の流れには、業界の中でのこのような動きを如何に食い止めるかという、訴訟を含めた動きと圧力があった。昔の配合飼料のピュリナがサプリメントを主体に押したセントラル・ソーヤ社に掛けた圧力は特に有名であったが(Kriderとの私信と会話、1970)、流れを阻止することは出来なかった。結果として、業界は生産販売システムの絶え間ない見直しの中で今日を向かえている。今日、飼料100をそのままの形で売っている例としては、大型企業経営の酪農に、粗飼料を混ぜたTMR(トータル・ミックスド・レイション)を牛群ごとに製造し、トラック輸送している南西部地域に多い飼料会社であろう。インテグレ養鶏の飼料会社の飼料も飼料を100として扱っているが、これは、飼料会社の経営母体が養鶏会社の側にあり、主導権は、飼料会社には無い。そこでは、それぞれの部門がプロフィット・センターとして扱われており、コスト割れさせない努力の中でインテグレ全体に利益が出るようにしている。
通常は、生産農場、或いは、種豚や種鶏農場が超大型のインテグレを展開しない限り、飼料会社が主体性を持って種々の飼料を製造し販売する形態は残ると言われている。やはり、競争に堪えて変貌を遂げてきた飼料会社は、飼料の栄養、製造、原料調達、貯蔵、配送など全般に拘わるシステムや専門性が卓越しているからこそ存在しているのである。したがって、普通ではとても太刀打ち出来ない技術や経験の蓄積を持っている。しかも、熾烈な競争の中で経営をする裏には、株主に対しての配当をないがしろに出来ない社会構造、更に、PL法(プロダクツ・ライアビリティ)の遵守を厳格に追求する社会構造があるので、経営者としては容易なことではない。
米国の大多数の飼料会社の畜産物生産と販売に対しての考え方
米国の業界関係者との雑談や業界の動きのなかで受けた筆者の感触を簡単に書き出してみたい。経営の専門ではないので、指摘が全て正しいと申し上げる積もりは毛頭無いが、なるほどと思われる部分もあろう。
米国の大部分の飼料会社は、自社製造の飼料を自社内で使用させる術として直営農場を所有し、ある種の川上からの垂直統合を行うことが非常に難しいと結論付けている向きが多いようである。また、顧客である畜産経営者を銀行に紹介する橋渡しはしても、資金調達やキャッシュフローまで保証しながら面倒を見ることは極力避けている。恐らく、株主に対しての配当を考えると、そこまでのリスクを負いかねる面が多々あるのであろう。
逆に、川下から川上に対しての垂直統合を大掛かりに進めようというケースも無い。つまり、スーパーマーケットが、消費者の好みに対応するべく、消費者の好みに合わせた畜産物を作らせるために飼料会社、生産農場、解体処理場、GPセンターなど全てを川下から所有することも敬遠される。勿論、消費者の好みを畜産生産会社やその流通サプライヤーに意見として出す例はある。一部の外食産業フランチャイズが、そのような動きに対応して契約生産に関与する場合もあるが、それは、全面的に行われていることではない。
スーパーマーケットの大手は、そこまでリスクを負って消費者の定点とは言えない好みを細かに掌握し、傘下の全販売店に対応するべく生産、処理、流通をコントロールすることは、業界の競争が熾烈であるが故にリスクが大きすぎると考えているようだ。株主に対して、納得させられる配当が出せないことは致命的であるから、躊躇する理由は判る。加えて、扱う販売量と種類と規模の大きさに立ちはだかるのが、消費者の流動的な好みの傾向、及び、安くて良いものをエブリデー・ロー・プライスで買うことが当然であると心底から強く信じている消費者が大多数を占める社会が挙げられる。それのみならず、そのような流通に対応する為に巨大な卸業(ホールセーラー)とディストリビューターが建てた冷凍冷蔵倉庫、更に、スーパーマーケットが広域販売網をカバーする為に作り上げた巨大な調達用冷凍冷蔵倉庫のネットワークがある。飼料会社が主体性を持ったインテグレを展開しない理由はこの辺りにもある。
地域ごとの消費者の好みは、購買品目の量や種類、季節ごとの違い、人種や社会構造などのデータ蓄積と解析がコンピュータによって出来る時代になってきている。イトー・ヨーカドウがセブン・イレブンから学んだ仕入れと在庫管理手法に販売予測が出来るデータ蓄積と改良を加え、逆に教える側に回ったことは有名である。しかし、前述のように、米国の大手スーパーマーケットの場合は、生産部門を全面的に所有せずに、サプライヤーから、顧客のニーズに対応出来るような製品と量を安く仕入れることを先決としている。今後、良し悪しは別として、合併吸収と寡占化が一段と進み、また、事業のための融資や資金繰りのあり方が変り、それぞれの産業セクターの力関係が変ってくると考えられる。その時に、川上、或いは、川下からの垂直統合が起きないとは言えないかもしれない。筆者は、経済リスクを負わない形で進むアフィリエーション、或いは、アライアンスのような自由度の高い関係が生じる可能性のほうが大きいように思う。
確かに、飼料会社の巨大な合併は、連結決算で繋がっている他の部門も含めた効率改善と付加価値を付けた最終製品の開発販売が可能になる面が無くはない。例えば、ランド・オ・レークス農協会社(現在は、ファームランド農協と合併)が末端での米国のバター関連商品の85%程度を扱っているということは消費者の間でもよく知られている。しかし、こうなった背景には、農協であったが故に、余剰乳が多く出た時代に、民間の乳業会社が引き取りたがらなかった原乳をバターに変えて酪農家を守る調整工場の役目を果たさなければならなかったという経緯を忘れてはならない。そして、その苦難を逆手にとって今日の総合的な組織として成長した。
米国の農協と商系組織が、同じ土俵で勝負するのを良しとしている点は前述の通りであり、一般的に受け入れられていることであるが、やはり、農家が雇った農協組織を運営する経営者やスタッフと農家(農場経営者)の間には、波風が立つことがあっても、共通意識を持った仲間としての信頼感と連帯感が存在する。その関係を、「外から見ても判らない夫婦の関係と絆」に例える農家も中西部には居る。そのような例が適切かどうかは別として、外部の人間が、農協組織と農家の関係を軽く扱って過小評価することは農協会社についての判断を誤まる。
日本の飼料産業は変貌を遂げながら発展する
本論の始めに日本の飼料産業の予想以上の強さを書いた。2000年(平成12年暦年)の総配合混合飼料生産実績量は、1988年(平成元年暦年)と比べ8%落ちのみに留まっている。過去12年間の下がり方は、年率にして0.7%弱のみである。2000年の肉畜などの輸入量が、牛肉72万トン、豚肉65万トン、鶏肉57万トン、生乳換算で約400万トンの乳製品があった事を考えると、日本の飼料産業は大変な改革を果たしながら力を付けてきたことが判る。
日本の飼料メーカーの2000年暦年の上位5社は、農協系と商系を一緒に扱えば、1位:全農(718万トン)、2位:日本農産工業(217万トン)、3位:中部飼料(205万トン)、4位:協同飼料(173万トン)、5位:日本配合飼料(135万トン)である(飼料日報社調査による統計、2001より)。日本の統計は農協系と商系とを区別して扱う傾向があるから、全農を別扱いにすれば、順位は一社づつ上がり、5位に伊藤忠飼料(122万トン)が入る。因みに、商系の次の5社は、日清飼料、丸紅飼料、日和産業、昭和産業(九州昭和産業を含めて)、豊橋飼料である。全農を入れた上位5社で、総飼料生産量の60%を司る。米国の飼料産業の上位5社が、一次飼料の30%を司っていることを考えると理由はどうあれ明白な違いがある。
恐らく、日本においても、今後は劇的な合併吸収が起きる可能性が高くなるだろう。筆者は、米国よりも合併吸収が進み、寡占化が進む傾向が起きると感じている。そして、飼料生産販売効率を重んじる巨大な組織が出現するにつれ、小さい飼料会社が今までよりもはるかに活躍出来る隙間産業が出現してくると考える。それは、筆者が、ニュースを賑わす米国の巨大な飼料メーカーの存在の裏に、年間に2万トンから5万トン程度の飼料を生産販売し、狭い地域に非常に強く根付いた数多くの飼料会社が衰退せずに存在し、繁栄もしていることを知っているからである。
前述の例とは少し異なるが、小さくとも特種な強みを持った飼料会社が、地域でのアイデンティティをそれなりに残してグループ化の中に自ら吸収されていくケースも出るだろう。米国の場合、ピュリナ・ミルスに入ったゴールデン・サン・フィードやケント・フィードに入ったエバグリーン・ミルスやブルーシール・フィードなどがそれに近いケースである。ただ、筆者は、過去にアルバーズが、カーネーション、更に、マンナプロへと合併の後に更に分裂して独立していった過程を間接的に知っているので、地域に強く根付いて技術的にも優れたものを持っている会社は、出来れば独自路線で進むのが良いと思う。ただ、それに影響を与える要因には、経済環境のみならず、経営者自身の性格や人生観、また、何を持って成功と呼ぶのかといったような一件ささやかとも思えるような点が挙げられる。
日本の飼料産業一般について感じること
日本の多くの飼料工場は、米国の大半の飼料工場よりも格段に新しい機械を使っている。搬入搬出操作を一元化したグラフィック・コントロール・パネル、ロボット・パレタイザー、目減りを正確に測定するビン・レベラーなどは珍しくなくなっている。分析も早くなってきている。工場運営に関してのハードとソフトの近代化には確かに目を見張るものがある。
上記のような変化は、飼料産業の発展に貢献する部分があることは間違いないが、最後は、飼料を使ってくれる顧客に到達するための飼料開発、テクニカル・セールス、販売流通プロセス、法務、顧客との接点の維持に拘わる現場プロパーと本社や支社の支援スタッフの在り方などが問われる。販売については、サイトを長くした売掛と手形決済から脱する努力が肝要であるし、飼料会社や畜産生産者(農家)も組合員勘定による代金決済が内包する諸々の長所と留意点の将来について熟考する必要がある。
「IT」が幾ら叫ばれても、飼料を現場やディーラーに売るのはコンピュータではない。最後は、人間対人間の微妙な関係が、直接的、及び、間接的に絡む。社内の財務を含むシステム管理体制の改革や、会社の自己資本率と債権処理等のガイドラインも重要である。しかし、組織が崩壊するときは人間で崩壊する。逆も真であり、発展は人間が起す。個々の人間が持つ良心、ビジョンと信用を大切に扱う心などが組織全体に与える影響を決して過小評価してはならない。
下記に挙げたいくつかの点は、折に触れ、一人で考えたり、内部での意見交換や話題として取り上げて頂くと面白いだろう。
- 米国の飼料会社で、顧客に人望の篤かったセールス・プロパーが他社に動くと、その顧客が一緒にそっくり動くことがある。それでは、最初の飼料会社の技術に裏打ちされたとされる製品は何であったのかという疑問を呈する
- 80:20の法則が飼料セールスにも適用出来ることは、以前に米国中西部の飼料業界で行った調査でも指摘された。何故、あるセールス・プロパーは、持てる20の時間で、ゴールの80の飼料を売ることが出来るのだろう。その逆は、何故、起きるのだろう。
- 飼料を販売する為には、飼料の製品数(配合設計数)を出来るだけ少なくして、現場で調整して貰う方法と顧客のニーズに細かに対応して設計数を多くする方法がある。飼料会社の総設計数だけを見ても判らないが、両方に対応させるシステムは根本的に違う。
- 窒素とリンなどの排泄をコントロールした「環境に優しい飼料」(エンバイオメンタリー・フレンドリー・フィード)の将来はこれからである。しかし、このタイプの飼料の開発には人的、資金的投入や投資に対しての収益性(ROI)を冷静に検討する必要がある。
- 顧客に不快感を与えないで、技術的に正しいことを毅然と伝えて理解してもらうことは、テクニカル・セールス・プロパーと本社や支社の支援体制の重要な役割であると言われているが易しくない。A社で通用することが、即、B社でも通用することにはならない。
- 飼料販売に人間関係が重要なことは間違いないが、直接に会わなくても、暖かさを持った維持は、「IT」でかなり出来る。去年、米国の飼料会社の9割弱が通常のやり取りにはメールを駆使し、7割強が双方向ホーム・ページを顧客のために維持していた。
- 相手の云う事を端折らないで物静かに聞いてよく分析し、相手の良い点を誉めながらソフトにアプローチするセールスのほうが、販売成績は相対的によいことが指摘されている。実際には、米国のトップのセールス・パーソンには、賑やかでたたみ掛けるのも多い。
- 熟成した社会での消費者のニーズは、残念ながらハード・サイエンス(確かな学術研究に裏打ちされた科学)を無視したものも増える。それは特殊なマーケッティングの可能性と興味を喚起するが、事業として取り組むときは、将来の方向も熟考する必要がある。
- 「IT」のシステム化が進むにつれ、飛び交う情報は必ず処理能力を超えるようになる。現場から上層部に報告をメールしておけば責任回避になると考え、上層部も現場全体に伝達事項を配信メールしておけば済むと考える組織は、大幅な意識改革の修正が必要である。
おわりに
飼料会社内部では、これから益々建設的な激論を戦わしながら新製品も開発し、システムを改革し、販売や広報戦略を練る場が増えるであろう。激論を戦わすことと、戦わした者同士の人間関係に亀裂が入っては無らない、というのは理論としては理解できる。
面白いのは、米国でも、この矛盾とも言える点は同じであり、ジョークのうちにも「お前の言いたいことは良く判ったよ」、また、「お前にそれは言われたくないね」、というニュアンスとメッセージを持った言い回しが非常に多い。暖かいのもあれば、冷たいのや、下品なのもある。
筆者は、「虎さん」の映画シリーズが、何十年に渡って伝えてきたメッセージの中で、最も重要なメッセージを含んだセリフは、虎さんの「そこまで言っちゃー、おしまいよ」であると思っている。ふざけて申し上げているのではない。これは、非常に奥の深いセリフである。心底から、このセリフを生真面目に吐かなければならない状況になったときは、相手に胃潰瘍を起こさせるか、部署変更を願い出るか、静かに去りベンチャー企業を興すか他社に移動するかである。
日本の飼料産業は、海外からの動きも増えるなかで、つぶさに検討すれば、まだまだ切り口を変えて発展出来る面を残しているし、新しいコンセプトを持った製品や管理体制を開発推進させられる面を残していると強く感じる。
スマートに働く、という英語には、格好良く働く以外に、頭を使って働く意味も入っている。最後に、その言葉の頭文字を紹介して本稿を閉じたい。これは、米国のある飼料会社の各部門で使っていたものであるが、その飼料会社のオリジナルではない。
スマート(SMART)に働き、活動する
S = Selective ……………選択性を持つ
M = Measurable……………測定し得る
A = Attainable……………到達し得る
R = Realistic ……………現実的に行う
T = Time Objective………時限を切る
本稿から何らかのヒントを得て頂けたら誠に嬉しい。今後の御発展を陰ながら祈りあげる。 |