妊娠豚、授乳豚の栄養管理
ボブ・テーラー博士
サウスダコタ州立大学
ステップアップ養豚・養鶏セミナー2002 2002/06/21
母豚は、養豚経営を維持させる「工場」のようなものである。生産性のある母豚無しで、給餌すべきあるいは販売すべき肉豚の存在は無いであろう。母豚の栄養管理をまず述べることで、給餌できる子豚がいることになる。このペーパーは妊娠期と授乳期の栄養管理について記したものである。
妊娠は一つの114日間という時期ではない。逆に、数多くの違ったフェーズ(時期)があり、最適の成績を得るためにそれぞれの栄養管理が必要である。成功を収める繁殖計画は未経産豚が候補豚として繁殖豚群に入ってくるときから始まる。未経産豚は体重105kgから始まり、系統の持っている特長により選抜を受けた後、生涯に応じた給餌プログラムにのっとり適切な飼料が与えられる。これら候補豚は1日2.7kgの飼料が与えられ、それにはリジンが0.7%、カルシウムが0.75%、そして有効リンとして0.65%が含まれているべきである。エネルギー摂取を制御するために飼料摂取量は制限されるが、未経産豚は他の栄養素は成長と体維持のために十分に与えられるべきである。この飼料を種付前(2回目の発情)2週間続ける。この時点で、飼料摂取量は排卵個数を増やす目的で種付までに50%増やしたほうが良いであろう。これは通常、「フラッシング」と呼ばれ、結果として1.5頭の産子数が増える。フラッシングは種付直後に中止すべきである。さもなければ生存産子数が減ることになる。同時にフラッシングは経産豚には用いることはできない。あるいは豚房においての種付のときも発情時期の確定が困難なために用いることはできない。
候補豚が種付されれば、下記に示すプログラムに沿うことで最大の成績を得ることは可能であろう。
種付後から7日
- 制限給餌
- 現在の研究結果から種付後72時間までに受精卵の死滅が起こるといわれている。
- 肥満母豚への飼料摂取量の増量は受精卵死滅を促進する。
- 痩せている母豚への飼料摂取量の減量は受精卵死滅を招く。
- ボディ・コンディションに基づいた給餌。
7日から37日
- 適切なボディ・コンディションへ母豚を導く機会。
- 種付後37日までに飼料摂取量を調整し、ボディ・コンディションを最適に近づける。
- 母豚を1頭ごとに観察する。
37日から75日
- 母豚の体の維持、成長、胎仔発育に見合った飼料給餌。
- 胚分化の時期。
- 一つの試験報告にはこの時期の給餌量を上げることで胎仔の筋肉量を増やすことができる。
- 安定した結果は得られていない。
75日から100日
- 乳腺発達の重要な時期。
- 過剰な飼料給与により乳分泌細胞数を減少させ、乳腺のDNA、RNAを減少させる。
- 乳生産を減らす。
- 痩せた豚と肥満の豚で1日当りの乳量に1.91kgの差が出るという報告もある。
- 過剰給餌を避ける。適切なボディ・コンディションを保つ。
100日から112日
- 胎仔の急速な成長のある時期。
- 飼料摂取量を0.9kgから1.8kgの間で増加。
- 飼料摂取が少ない場合、母豚は体組織を分解する。
- 分娩後の飼料摂取量が少なくなる。
- 分娩後期の2週間の飼料摂取量を上げる。
112日から分娩
- 最低1日当り1.8kgの飼料を与える。
- もしそれより少なければ、
- 分娩後母豚は急速に痩せ、それ以降の摂取を止めることがある。
- 胃潰瘍の増加が見られる。
- 便秘が大きな問題となりうる。
この給餌管理は妊娠期間の栄養管理を成功に導く基礎となる。しかし最も重要なこととして思い起こさなければならないのは、母豚のボディ・コンディションを最適に維持することである。痩せ過ぎの母豚は繁殖問題を抱え、過肥の母豚は痩せすぎの母豚以上に多くの問題を抱えることになる。
母豚のボディ・コンディションを最適に維持する一つの方法は、ボディ・コンディション・スコア(BCS)を用いることである。業界で通常用いられるものは5段階で、1は痩せすぎ、5は肥満を表す。理想的には、分娩豚舎へ来るときはBCSが2.5を超えないようにすべきである。この時点の臀部の骨、背骨は見えないが、手のひらで抑えると感じることができる。
妊娠期間の過剰な給餌は三つの費用のかかる結果となる。一つ目は、余分な飼料費用。もし母豚が妊娠期間中に1日当たり0.45kg余分に飼料を摂取したとすれば、年間で焼く108kgが不必要な飼料として与えたことになる。費用的に無駄をしたことのみならず、窒素、リンの余分な排泄を起こさせる結果にもなる。これは環境問題となり、その対策費は非常に高くつく。
妊娠期間中の過剰な飼料摂取は授乳期間の飼料摂取の減少を招く。ネブラスカ大学の研究報告では、妊娠期間と授乳期間の飼料摂取量には相反する関係があることである。妊娠期間中の過剰な飼料摂取は、授乳期間の飼料摂取を招く。この結果、母乳生産の低下、離乳体重の低下が起こる。そして母豚は自分の体組織を分解して自分の栄養要求量を満たそうとする。このことは、痩せさせ、次の繁殖成績を悪化させることになる。
三番目の妊娠期間中の過剰給餌による悪い結果は、乳腺発達を阻害する。ある研究では乳腺は妊娠75日から100日の間に発達が起こると発表している。この時期に過剰給餌が起これば、乳分泌細胞数の減少と同時に、乳腺のDNA、RNAが少なくなる。この結果、乳生産の低下が起こる。それゆえ、いくつかの点を考慮すれば、適切な飼料の給餌量を守ることで、ボディ・コンディション・スコアを2.5とし、母豚の成績を最大にするために過剰給餌を避けるべきである。それで、妊娠期間の基本的な給餌量を1.8kgとし、ボディ・コンディションに合わせて給餌量を調節すべきである。
妊娠豚のリジンの要求量は0.55%であるが、この量が何によってまかなわれているかが問題となる。合成リジンは養豚飼料に用いられる一つの原料であり、飼料費を下げ、成長する豚の成績を妨げることなく栄養素の排泄を下げることができる。しかしながら妊娠豚ではこのことが当てはまらない。その理由は、妊娠豚は1日に1回しか飼料給餌がなされない。合成リジンの吸収は飼料摂取後約30分である。しかしこのときその他のアミノ酸は蛋白質原料に負うものが多く、摂取後2時間くらいから吸収が始まる。ということは摂取後30分はりジンが過剰となり、蛋白質生成を行うための他のアミノ酸が血管中を流れていないために、リジンは分解されて排泄される。2時間後に、飼料由来のアミノ酸が吸収され始めるが、そのときにも蛋白質生成に必要なリジンが十分に血管中に流れていないために蛋白質生成量が予定より少なくなる。このことは、他のアミノ酸が過剰となり、排泄されることになる。基本的には飼料中のリジンは十分であっても、大豆ミールなどの蛋白質飼料から来るリジンと合成リジンの吸収速度の違いによりリジン不足が起こる。このことから、妊娠飼料には合成リジンの使用は薦められない。
分娩すれば、栄養要求量は劇的に増加をする。飼料配合設計に携わる人は様々な飼料原料を割合においてバランスを取るが、母豚は栄養量(1日当りのカロリーあるいはグラム)を求めている。母豚の要求量を満たすことを確実にするには、まず最初に1日あたりの栄養要求量(g/日)を考慮し、平均飼料摂取量を調べ、飼料中での栄養割合を計算する。一般的には、リジンを第一制限アミノ酸として用いる。母豚は一腹子豚体重によりリジンをパーセントではなく、グラムで1日量を要求する。一腹体重が重ければ、子豚のために母乳生産用のリジンは多く必要となる。一腹体重1kg増加に対して26.2gのリジンは必要である。
同時に、エネルギー量はリジンの増量とともに直接的に調整をする。添加されたリジンはエネルギー量も増えない限り何の効果も現れない。逆に、授乳豚飼料へ油脂添加をする場合も、リジンの添加が必要となる。カロリーとリジンの比率は母豚においては一定を保つ必要がある。
そして母豚はエネルギーとリジンのみならず、栄養素全てを高単位必要であることを忘れてはならない。他の全ての必須アミノ酸は特にそのように言える。育成、肥育、妊娠豚の飼料では考慮しなかったアミノ酸の一つであるヴァリンは授乳飼料として考えなくてはならない。ヴァリンはリジンとほぼ同量要求されている。もし合成リジンを授乳飼料に用いるならば、大豆ミール配合割合は減少する。そしてそれに付随して全ての栄養素も減少する。授乳豚において、結果的にヴァリン不足となる。多分、トレオニン、トリプトファンも不足するであろう。それゆえリジンを除くアミノ酸の不足を防ぐために、授乳豚飼料に合成リジンを用いることは勧められない。
授乳中の飼料摂取を増やし、その結果として成績や利益を上げるための他の管理方法がある。分娩豚房で給餌回数を2回から3回に変更することで飼料摂取量の10から15%の増加は見られる。飼料粒度を600ミクロンまで下げることで飼料摂取量と離乳体重の増加が見られる。しかし、あまりにも細かい微粉末は胃潰瘍となり問題となる。飲水の量は飼料摂取に大きく影響を与える。最適な飼料摂取を得るためには、流水量は1分間に1リットルが目安である。これより少ない場合は、飼料摂取量も成績も落ちる可能性がある。最後に、母豚をいち早く最大の飼料摂取にするように努めるべきである。分娩後の制限給餌は便秘、MMA(子宮内膜炎、乳房炎、無乳症)などを招く。飼料摂取量が1日あたり4.5kg以下であれば、油脂を5%添加し、同時にリジン量を調整した飼料を与えるべきである。
繁殖豚群の管理は候補豚から始まり、無事離乳させ、種付けが完了して終わる。鍵となる点は、妊娠期間中に飼料の多給を避け、ボディ・コンディション・スコアを2.5で維持し、妊娠飼料、授乳飼料から合成リジンを避け、個体の管理を中心にすることである。これに従うことで、他の点はこのペーパーに記され、母豚の成績は最適となり、数多くの子豚が肥育へと育つはずである。 |