如何なる国においても土地は酪農や農業全般の生産基盤
新年明けましてお目でとう御座います。猪の年とは言え、猪突猛進で全てが解決できるほど単純ではない変化や改革が川上から川下にいたるあらゆる飼料・畜産関連分野で将来起きてくることが予想されます。私が強い関心を持つ米国酪農や飼料分野の学術研究内容にも様々な変化が起きつつあります。本年も種々の角度から捉えた飼料・畜産トピックスなる拙稿を連続掲載することになりました。過去の150編のトピックスについて今までにも数多くのお問い合わせやご要望を多方面から頂戴したことに執筆者として感謝申し上げます。また、飼料用の大豆・大豆副産物についても多くの関心を示してくださったことに感謝申し上げます。
アメリカ大豆協会の名誉参事・非常勤として執筆する以上、年の初めには大豆ミールを一番消費する養鶏養豚関係のトピックスを選ぶのが妥当なのでありましょう。然し、個人的な好みの我侭をお許しいただき、本編では酪農にも大きな関係のある土地の価値などについて米国の例をあげて触れたいと思います。
私の第二の故郷とも云える米国アイオワ州は、最も密度の高い農作を行っている州の一つですが、2006年の土地価格や賃貸料は次のようなものです。牛舎、機械倉庫、場合によっては母屋など建物を含む土地価格は、1ヘクタール当り858,000円(換算、1ヘクタール=2.44エーカー、1ドル=120円)、畑地1ヘクタール当たり896,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり381,000円、年間賃貸料は灌漑をした畑地、或いは、非灌漑畑地を含め1ヘクタール当たり39,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり11,000円です。アイオワ州は日本の国土面積の約4割あり、平坦な土地から起伏の激しいところもありますし、市街地に近いところありますので、実際の売り買い相場は、前述の価格よりも大幅に違う場合も少なくありません。また、親子関係を含む売り買いの場合などに見られる非常に低い身内、或いは、仲間相場もあります。然し、州全体の平均として捉えると前述のようになります。
2006年の全米の平均土地価格や賃貸料は次のようなものです。アイオワ州と同じく牛舎、機械倉庫、場合によっては母屋など建物を含む土地価格は、1ヘクタール当たり556,000円、畑地1ヘクタール当たり700,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり293,000円、年間賃貸料は灌漑をした畑地、或いは、非灌漑畑地を含め1ヘクタール当たり23,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり3,200円です。平均的な数値で捉えた全米の農地価格を考えるとき、米国は日本の国土面積の26倍あるという事実と地域によっては想像を絶するほどの広大な野草地(牛や羊などの放牧地として使いうる土地)が存在するということです。
酪農のメッカであるウィスコンシン州の場合は、前述の順に表わすと牛舎、機械倉庫、場合によっては母屋など建物を含む土地価格は、1ヘクタール当たり937,000円、畑地1ヘクタール当たり878,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり498,000円、年間賃貸料は灌漑をした畑地、或いは、非灌漑畑地を含め1ヘクタール当たり21,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり11,000円です。採草地(放牧地など)の平均賃貸料はウィスコンシン州が一番高く、米国南部や北部の平地の広大な採草地の賃貸価格は低く変化はあまり見られません。
本論で触れた売り買い価格や賃貸料などの例は、コーネル大を含む州立大学や州の農業統計、米国農務省農業統計サービスの統計を参考にしました。
日本の北海道や東北の一部に見られる山間酪農のような形態が見られるペンシルバニア州の場合は、前述の順に牛舎、機械倉庫、場合によっては母屋など建物を含む土地価格は、1ヘクタール当たり1,403,000円、畑地1ヘクタール当たり1,496,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり726,000円、年間賃貸料は灌漑をした畑地、或いは、非灌漑畑地を含め1ヘクタール当たり14,000円、採草地(放牧地など)1ヘクタール当たり7,300円です。
賃貸料や農地価格は、日本のそれらから比べれば信じ難いほど安いかもしれませんが、国土の巨大なることや国内市場などへの出荷距離、多種多様な農業と云えども自由競争を基本的には重んじる経営に必要な経営規模などが入組んでいるので単純な価格の比較で羨み恐れることではありません。最近の一般的な傾向としては、牛舎、機械倉庫、場合によっては捨て難い3〜4ベッドルームを備えた母屋などの建物を含む30ヘクタールから300ヘクタール前後の農場価格が1ヘクタール当たり1,500,000円から3,500,000円前後で買えるという農場が太平洋岸諸州などの風光明媚な地域でもかなりあるでしょうが、酪農を経営するということになると安易にできることではありません。
余談ですが、現在のところ旱魃や灌漑用水の問題などにも見舞われた米国南部諸州の農業経営には変化も起きています。例えば、ランチ(規模の大きい放牧牛経営)などでは、銀行への負債返済よりも借り入れを増やす傾向が見られるという観測があるということです。低質な粗飼料を補うためにはどうしても栄養密度の高いサプリメントを与える必要が出ますので追加の現金出費に繋がります。場合によっては粗飼料そのものの絶対量を確保するために追加購入しなくてはならないという現実そのものが今年度の経営の難しさを表わしています。場所によっては、農業以外の利用を考える人たちも出てきているということです。
日本の酪農も生産基盤には糞尿処理分も含めた土地の有効利用が不可欠です。土地が無くても水耕法によりハウス栽培ができるとする野菜や果物は別としても、通常は、酪農を含む畜産には糞尿処理分も含めた総合的な生産基盤が必要です。また、イネ科穀物などを作るにあたっても酪農や畜産生産基盤と裏腹の関係にあり、補完協力体制を保つことが肝要です。この土地の有効活用に関する基本的な考え方は如何なる国においても同じです。
「米国には土地が余っているからできる」という意見が時折出ますが、米国の地道、且つ、緻密な農業とそれを支える周辺事情、うねりの様に起きる変化のきざしと進み具合を若干なりとも知る者としては、「土地が余っている云々」というコメントにうなずくことは出来ません。日本国内もよく見渡せば活用していない土地が如何に多いかということに驚かれることでしょう。確かに発想の転換を必要とするかもしれませんが、法律を含む種々の要因を改革していくことで日本国内の土地もまだ有効に使える面が多々あります。同時に国土の広さに伴う絶対的な違いがあることも合わせて認識する必要があります。その認識が浅く甘いと輸入農産物不用論の台頭を招き、結果として関連業界やコンシューマーに多くの混乱や困惑、また、選択肢の制限で不利益が生じる可能性が高いからです(瀬良、2007)。 |