育成豚への大豆ミールと低フィチン・リン大麦主体飼料の結果
カナダのアルバータ大学の研究者グループ(アルバータとメキシコ)セルバンテスを含む計8名が低フィチン燐大麦と大豆ミールを使って育成豚のリンや窒素排泄の報告を行っています。大麦は日本でも大豆ミールと組み合わせてつくる養豚飼料に関心が持たれていますので、結果の一部を簡単に御紹介しましょう。
本試験は育成豚の燐と窒素の排泄がどうなるかを4種類の大麦ベースの飼料で調べています。4種類の飼料は低フィチン・リン大麦(LPB)と通常の大麦(NB)、そして、飼料中粗蛋白質が18%、又は、15%です。通常の大麦(NB)は全リンが0.31%でフィチン・リンが0.19%で粗蛋白質は8.52%ですが、低フィチン・リン大麦(LPB)は全リンが0.32%でフィチン・リンが0.01%で粗蛋白質が10.03%です。
飼料には養豚栄養要求推奨量(NRC/1998)にある小腸での見かけの消化率を充足するために必要とあればリジン、メチオニン、トレオニン、及び、トリプトファンを補足添加しています。通常の大麦(NB)を使った飼料の場合は養豚栄養要求推奨量(NRC/1998)にある有効リン(0.23%)を充足するために無機リンを補足添加しています。低フィチン・リン大麦(LPB)を使った飼料は充分な有効リン(0.27%)が含まれていましたので無機リンの補足添加はしていません。
試験には8頭の去勢豚(平均体重20.9kg)を使い4×4ラテン方格の反復で4飼料の試験を行っています。飼料の代謝エネルギー(ME)は維持要求量の2.5倍で給与しています。去勢豚の給餌は等量で1日2回、午前8時と午後3時に与えています。飼料はマッシュで与え、大麦は2mmメッシュの篩を通過するように粉砕しています。水は飼料に対して2.5:1(重量:重量)の割合で混ぜています。給餌と給餌の間、水は自由摂取にしています。各試験は7日間の慣らし期間と5日間の糞尿採取期間を設けています。
平均開始体重は1回目、2回目、3回目、4回目の計4回について、それぞれ22.1kg、27.5kg、35.1kg、42.4kgでした。試験終了時の平均体重は50.8kgでした。
通常の大麦(NB)を低フィチン・リン大麦(LPB)で置き換えた飼料粗蛋白質18%と15%についてそれぞれ全リンを38%と43%減りました(P < 0.001)。飼料中粗蛋白質を18%から15%に下げると通常の大麦(NB)と低フィチン・リン大麦(LPB)についてそれぞれ29%と32%減りました
(P < 0.001)。粗蛋白質の含量を下げたことにより窒素の保留量に減少(P < 0.001)が生じました。低フィチン・リン大麦を与えられた育成豚の糞尿の窒素:リン比は通常の大麦(NB)を与えられた育成豚のそれよりも大きかった(P < 0.001)。これらのデータから育成豚の飼料に使われる通常の大麦(NB)を低フィチン・リン大麦(LPB)で置き換えることにより、また、育成豚の飼料粗蛋白質を減らすことによりリンと窒素の排泄をかなり減らすことができることが示されています。
試験飼料設計 原物中%
|
通常の大麦飼料(NB) |
低フィチン・リン大麦飼料(LPB) |
原料% |
CP18% |
CP15% |
CP18% |
CP15% |
脱皮大豆ミール(CP48%) |
25.30 |
15.43 |
22.45 |
12.35 |
通常の大麦 |
70.20 |
78.44 |
--- |
--- |
低フィチン・リン大麦 |
--- |
--- |
73.08 |
81.47 |
L-リジンHCL |
--- |
0.31 |
0.08 |
0.39 |
DL-メチオニン |
--- |
0.04 |
0.02 |
0.05 |
L-トレオニン |
0.04 |
0.14 |
0.05 |
0.16 |
L-トリプトファン |
--- |
0.04 |
0.01 |
0.06 |
カノーラ油 |
2.10 |
3.13 |
2.16 |
3.30 |
石灰石 |
1.10 |
1.15 |
1.35 |
1.42 |
1リンカル (Ca17%, P21.1%) |
0.46 |
0.52 |
--- |
--- |
ヨウ素化食塩 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
ミネラル・プレミックス |
0.10 |
0.10 |
0.10 |
0.10 |
ビタミン・プレミックス |
0.10 |
0.10 |
0.10 |
0.10 |
塩化コリン |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
0.05 |
酸化クロム |
0.30 |
0.30 |
0.30 |
0.30 |
ミネラル・プレミックスの設計は、育成豚用飼料1kgに対して供給する量として、鉄が150mg、亜鉛が150mg、マンガンが40mg、銅が25mg、ヨウ素が0.21mg、コバルトが0.5mg、セレンが0.3mg、エトキシキンが5.0mgです。また、ビタミン・プレミックスすの設計は、育成用飼料1kgに対して供給する量として、ビタミンA:10,000IU、 ビタミンD3:1,000IU、 ビタミンE:80IU、 ビタミンK3:2.0mg、ビタミンB12:0.03mg、 リボフラビン:12mg、 ナイアシン:40mg、 D-パントテン酸:25mg、 ビオチン:0.25mg、 葉酸:1.6mg、 チアミン:3.0mg、 ピリドキシン;2.25mgです。塩化コリンは育成豚用飼料1kgに対して0.3gの塩化コリンを供給しています。
ディスカッション中で本報告の研究者は飼料中粗蛋白質含量を18%から15%に落とし、制限アミノ酸を補足添加したことにより体内の窒素保留日量(g/日)が通常の大麦(NB)に対しても低フィチン・リン大麦(LPB)に対しても10%ほど減ったことを指摘しています。また、イリノイ大のイースターやカーの研究(Kerr and Easter, 1995)にも触れ、粗蛋白質12%の養豚飼料をリジン、トリプトファン、トレオニンで補足添加した飼料では、粗蛋白質16%の飼料を与えた区よりも窒素保有量が少なかったことなどを指摘しています。似たような他の研究者の報告にも触れています。同時に、大麦・大豆ミール主体の飼料中粗蛋白質を18%から15%に下げ、低粗蛋白質飼料をアミノ酸添加で補足すると窒素の排泄が大きく減ることも指摘しています。そして、飼料中粗蛋白質を下げても窒素の保留量は変わらないはずだとし、この辺りのパーフォーマンスを含めた研究は今後更に必要だと指摘しています。
表4点を含む論文の詳細に興味のある方は米国畜産学会誌(J.Anim.Sci. 2007, 85:700-705)を参照なさることをお勧めします。
余談ですが、本報告の研究者もディスカッションの中でも検討している窒素保有量の減少は平たい言葉で言えば、肉量が少なくなることを意味しています。欧米の研究者の間で環境を意識した飼料への関心が傾向として高まっていることは事実です。その中で検討されるのは、第一にリンの排泄、第二に窒素の排泄でしょう。リンの排泄に関しては、カナダの本報告にもあるように低フィチン・リン大麦は興味ある種類です。米国でもとうもろこしや大豆の生産者、大学や研究機関では低フィチン・リンの系統作物を養豚や養鶏飼料用に将来増産できるようにし、無機リンの添加量を減らし、最終的に糞尿に出るリンの量を減らそうという関心が高いことは事実です。窒素の排泄を減らすことにも関心が高まりつつありますが、コマーシャル段階では飼料の粗蛋白質を大きく減らし必須アミノ酸を添加で補っても逆に体内の脂肪量が増え、肉量や増体などのパーフォーマンスが落ちることが現実的問題として残されています。これには原料ロットごと、また、アミノ酸吸収量の違いなどの精度なども絡みます。アミノ酸によっては同じ会社内の異なる分析所のデータが一致しないことは多々あるほど難しいことは専門の研究者・技術者には判っていることでしょう。この辺りから全体のシステムを考えるときは、一つ一つチャレンジしなければならない地味でささやかな事柄が山積しているということです。従って、研究者の中には社会が肉量などが落ちてコストが余分にかかってもそれを容認するような社会が形成される時代になるまでは、リンのある部分は別にしても窒素の面から環境云々の低粗蛋白質飼料というのは難しいと指摘するものもいます。そうはいっても、ないがしろにすることではないことも指摘していますが、筆者も同感です(瀬良、2007)。 |