豚の糞尿の臭いとアミノ酸添加飼料の影響
オランダのワゲニンゲン農業大学の畜産研究者グループ(オランダとベトナムのリィやフェアスティーゲンを含む計6名)がクリスタル・アミノ酸添加飼料が豚の糞尿に与える影響を多角度から調べた興味ある報告がありますので、その極一部を御紹介しましょう。
この研究の目的は養豚飼料への特定のクリスタル・アミノ酸添加が糞尿の臭いに与える影響を調べるためいに行っています。調査項目は、糞尿が放出する臭い、臭いの強さ、臭いのヘドニック・トーン(この場合、嫌な悪臭の嗅覚調)、アンモニアの放出、また、糞尿の特性(pH、アンモニアN、全窒素、硫化、インドール、及び、フェノール化合物類、そして、揮発性脂肪酸濃度)でした。
試験は育成豚18頭を使ったランドム・コンプリート・ブロック計画で6ブロックに分けた供試豚を3飼料試験区にあてています。試験(1)(SAA)はCP15%の基礎飼料に含硫アミノ酸を要求量の3倍で与え(飼料1kgに対して14.2g、原物中;試験(2)(TAA) はCP15%の基礎飼料にトリプトファンとフェニルアラニン+チロシンを要求量の2倍で与え(飼料1kgに対してそれぞれ2.9gと20.4g、原物中;試験(3)(NOAA) はCP15%基礎飼料に最大の蛋白質生産増を得るのに充分な(過剰にではない)量のアミノ酸添加をしています。言い換えれば、それぞれの添加アミノ酸をそれぞれの要求量を充足する点まで必要とあれば添加しています。
育成豚の開始体重は41.2kg±0.8kgで床は部分スノコの個体ペンに入れ給餌日量は維持要求量(正味エネルギー:293kJ/kg体重0.75)の2.8倍で与えています。飼料と水は1:2.5(重量:重量)で混ぜて与えています。水は飼料と(飼料1:水2.5)混ぜる以外は余分な水は一切与えていませんが、これは試験豚が摂取する一定の飼料と水に対して一定の似たような量を糞尿として排泄するという考えからです。それぞれ個体の糞と尿はスノコの下に個別にあるピットに採集されます。
試験開始前の慣らし期間は2週間で、この間の糞尿はピットからクリーニング除去され、以後の試験期間の糞尿採集に対応しています。採集期間の最初の4週間は糞尿そのものはピットに溜めておき、最後の5週目に臭い、アンモニア、糞尿の分析のために採集しています。溜めておいた糞尿はそれぞれ個別の検体を個々の糞尿ピットから直接に採集しています。糞尿ピット上の空気の検体は臭いの放出濃度、ヘドニック・トーン(悪臭から心地良い臭いの嗅覚調)、臭いの密度を臭いのテスト・パネラーと嗅覚検知器が検知できるある検知レベル数値から上のものについて分析しています。増体日量、飼料効率(増体:飼料)は46日間の飼料摂取量と体重増加で算出しています。給餌日量は想定される1日当り780gの増体に合うように日々調整しています。
結果として含硫クリスタル・アミノ酸を要求量以上に添加した区では臭いの放出濃度(p <0.001)と臭いの密度(p < 0.05)が増え、糞尿ピット上の空気中のヘドニック・トーン(悪臭の嗅覚調)が減りました(p < 0.05)。クリスタル・トリプトファン、チロシンとフェニルアラニンは推奨要求量以上の添加でも臭いの放出濃度、臭いの密度、又は、ヘドニック・トーンに影響を与えませんでした。試験飼料区の違いに関係なく全ての育成豚の成績(パーフォマンス)レベルは似通っていました。異なるアミノ酸レベルを添加給与した育成豚の糞尿からのアンモニア放出に関しての違いはありませんでした(p = 0.20)。豚の糞尿から臭いを減らすのには、飼料中の含硫アミノ酸は推奨要求量に丁度合うように最小限度にするのがよいです。
試験飼料の栄養組成(原物中)の極一部を御紹介すると3種類の試験飼料(3)(NOAA)、(1)(SAA)、(2)(TAA)の順で計算組成の粗蛋白質がCP15%、CP15.57%、CP15.60%、分析組成数値が同じ順で粗蛋白質(N × 6.25)がCP14.81%、CP15.36%、CP15.24%です。
本報告は図4点、表5点を含む11枚のディスカッションが確りした論文です。詳細に興味のある方は米国畜産学会誌(J. Anim. Sci. 2007; 85:791-801)を参照なさることをお勧めします。
余談ですが、オランダのワゲニンゲン農業大学は世界的にも有名で緻密、且つ、詳細な研究を行うことで知られています。私が訪れたときも牛について面白い研究をしていました。ただ、ワゲニンゲン農業大学の研究者が発表する論文の内容の多くは、直ぐに実践に移せないようなものも扱い、また、将来の問題を先取りして行う研究が多いことでも知られています。そのような研究は徹底的な分析や手法を駆使して緻密に組み立てますので、専門家や研究開発担当の技術者の間では高く評価されているものが多いです。同時に、アフリカ諸国や開発途上国の技術者を対象にした実践的な啓蒙教育プログラムを維持していることでも知られています。
本報告の場合も試験豚、個々の糞尿ピットの上の空気を分析するために空気の検体を同一条件で回収するためのシステムを開発した図を論文中に示していますが、真に手のこんだシステムで、私は、「ここまでやるか」、と感心した次第です。測定値についても臭いの濃度の1単位は、臭いを起すガスの量を1立方メートルの空気で希釈し、臭いのモニター・パネルの人たちの50%が新鮮な空気との違いを認識できるかどうかを計算式に入れて数値化したものです。ヘドニック・トーン(H)と臭いの密度(I)、特にヘドニック・トーンは面白い考え方で、認識できるある臭いのレベルから上の悪臭の嗅覚反応を不愉快から心地よいという点を9点法にしています。(−4)は非常に不愉快な臭い、(0)は不愉快でもなく心地よくもない中立の臭い、(+4)は非常に心地よい臭いという分類です。この他にもパネラー用の数値、アンモニア濃度の計算式など日本の研究者の論文なども参考にした報告です。そもそもヘドニックの意味は快楽を追求するヘドニズムという哲学からきており、快楽主義を指します。人間の場合、食物で言えば栄養バランスを度外視し、肉類が多いグルメを食べまくることなどがヘドニスティック、或いは、ヘドニックと呼ばれ快楽追求を指します。正反対の意味合いを持つ言葉はストイックです。ストイックはギリシャの哲学者ゼノが紀元前308年頃に唱えた学説でストア哲学と呼ばれた禁欲主義です。
糞尿の臭いは本報告にもあるように硫黄を含むアミノ酸、つまり含硫アミノ酸はできるだけ要求量を充足するのに留めておき過剰に与えすぎないことが悪臭を軽減するのに役立つと指摘されています。人間にも若干通用することですが、糞尿や放屁の量に関係なく異常に臭いことがありますが、これなどは肉や魚など硫黄を含むアミノ酸が他の栄養素に比べ相対的に多すぎる場合におきる現象の一つでしょう。含硫アミノ酸とは、必須アミノ酸ですが、メチオニンとメチオニンと部分的に置き換えられるシスチン(システイン)を指します(瀬良、2007)。 |