アメリカ大豆協会

瀬良英介ニュースレター

瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2007年4月 (157)

ヨーロッパの観点からみた反芻獣に対しての新しい飼料添加物

英国ウェールス大学のニューボルドを始め現在はカナダのサスカチワン大学に移籍した1名を含め計5名の研究者が2003年に抗生物質を成長促進用に家畜飼料に使うことを禁じたヨーロッパ連合の観点から興味ある示唆に富んだ論文を米国の太平洋北西部家畜栄養会議に発表しています。

取り上げたのは、日本でも関心が持たれているエセンシャル・オイルスに関してですが、大豆ミールなどを含む研究の極一部などを御紹介しましょう。多角的なディスカッションと試験にも取り上げているのは今までにも数多くの試験に使われているスイス製の混合製品クリナ(Crina)です。

反芻獣は単胃動物とは異なり全消化管の前の部分にルーメン(第一胃)とオメイサム(第三胃)の二つの臓器を有していることです。(注、瀬良:細かく言えばレティキュラムが第2胃と呼ばれていますが、これはルーメンに続いた部分でルミノ・レティキュラムと呼ぶこともあり、本論で指摘している機能では第一胃と第三胃と云ってもよいのです。)繊維質の植物からエネルギーなどを利用することは哺乳動物の酵素からはできませんが、反芻という特殊な消化行動により微生物による摂取飼料の発酵や物性的な分解が可能になります。

微生物による摂取物の分解はバクテリアやプロトゾア(原生動物)、また、数は少なくても重要であると考えられる嫌気性の菌類などによって行われます(Dehority, 2004)。真胃(第四胃)の前にルーメンなどがあるので反芻獣が摂取する飼料は胃酸や小腸での消化が行われる前に微生物による分解にさらされることになります。ルーメンが基本的には発酵槽だといわれる所以です。部分的に発酵分解を受けた飼料や微生物はオメイサムを通過して真胃から小腸へと移動するのです。従って、全消化管後部の発酵とは異なり微生物の発酵産物は主に揮発性脂肪酸(VFA)であり菌体蛋白質が吸収されます。実際にルーメンで生産される揮発性脂肪酸で反芻獣のエネルギー要求量の大部分を賄い、ルーメンを通過する菌体蛋白質の全てではなくとも小腸に到達する蛋白質のかなりの部分を賄います。このように反芻獣の栄養を考えるときの特徴としてルーメンの重要性が挙げられるので、この複雑なエコシステムを操作するべく多くの方法が研究されてきているのです。

ヨーロッパ連合は2003年に抗生物質を成長促進用として家畜飼料に添加したり使用すること禁じたことは業界では周知のことです。このような規制に至る背景には抗生物質を畜産に使うことで人間の治療に抗生物質を使うときに生じる問題、つまり伝達性の抗菌要因による科学的な懸念が生じているからだと指摘する研究者が居ます(Casewell et al., 2003)。成長促進に使う抗生物質を除くことにより、ルーメンの発酵を操作して他の方法で生産性を上げるということへの関心がより強まりました。また、微生物や害虫からの攻撃を防ぐために膨大な種類の二次的化合物が植物から作られました。植物性化合物によっては家畜にとって毒性がありますが、有用なものもあり、それらの多くは反芻獣や単胃動物の消化管機能を操作するために使われてきています。このような背景の中で研究者が最近行ってきている植物性抽出物の特定サブ・クラスであるエセンシャル・オイルスですがルーメンの発酵に与える影響は有益、且つ、多面的です。

エセンシャル・オイルはスイスの薬剤界のパイオニアであったフォン・ホーベンハイムが薬物の効果的組成分であるクインタ・エセンシアから得たようだとグエンターが1948年に指摘しています。然し、エセンシャル・オイルという名称は誤解を呼びます。何故ならば、名称にあるようにエセンシャル、つまり栄養や代謝でいうところの「必須」ではありませんし、オイルスといっても脂質(lipids)の感覚で捉えるものではありません。エセンシャル・オイルスはむしろ油分のような外観を呈した揮発性の芳香族化合物で植物性物質から得たものです。従って揮発性、或いは、エーテル性製油と呼ぶ研究者も居ます。

エセンシャル・オイルスは男性用の芳香剤としても使われてきましたし食品フレーバーにも永年使われてきました。エセンシャル・オイルスは植物の根、樹皮、花、花弁、葉、幹などあらゆる部分に存在し、食品の抗菌用としてスパイスやプリザーバティブの主成分として使われています(Hirasa & Takemasa, 1998)。エセンシャル・オイルスの抗菌作用は選択的な面があるようで抗菌作用の試験に使われている化合物や菌数などによっても異なるようです。

エセンシャル・オイルスを使ってルーメン機能を操作する研究は45年ほど前の1960年台から始まりました。一時、イオノフォア的抗生物質の利用が進む中でエセンシャル・オイルスの関心が下がりましたが、イオノフォアをも含め抗生物質を成長促進用などへ使用することへの規制により再度関心が高まりました。近年の研究には自然のエセンシャル・オイル一種類を使ったのもあります。恐らく最も数多くの研究がなされ、また、本報告の研究者グループが大部分の研究を行ってきたのがスイスのクリナSAから販売されている製品であろうと思います。クリナはパテント化された自然、及び、自然同等のエセンシャル・オイル化合物でチモール、ユーゲノル、ヴァニリン、リモネンを主要組成分として有機キャリア(担体)にのせています(Rossi, 1995)。

報告には大豆ミール・大麦をルーメン内に下げたナイロンバッグに入れてエセンシャル・オイルスの影響を見た図1があります。縦軸に乾物の消化率を0〜100%でとり、横軸に20時間、40時間の培養時間の幅をとっていますが、対照区よりもエセンシャル・オイルス使用区のほうが20時間前後のところで大豆ミールの乾物消化率が10%単位ほど下がっています(p < 0.07)。(注、瀬良:これは、設計などによっては良い面があります。)また、図2では縦軸に乾物の消化率を40〜90%でとり、横軸に2、4、6、8時間と2時間ごとの培養時間をとっていますが、対照区よりもエセンシャル・オイルス使用区のほうの粉砕大麦が2時間目程度から乾物消化率が約5%単位弱ほど下がっています(p< 0.07)。エセンシャル・オイルス使用区はその後も8時間目に向かって乾物消化率が約5%単位弱ほど下がっています(p< 0.10)。(注、瀬良:これも設計によって良い面があります。)また、豆、ヒマワリ、菜種、大豆、魚粉など異なる蛋白質サプリメントに対してのエセンシャル・オイルスの影響をインビトロでも見ています。要は、クリナの効果が選択的であると云われていても、推奨されている量よりも20倍高い濃度でルーメンに入れれば全ての発酵が抑えられ菌の選択性はないとの指摘もあります。研究者によってはルーメン微生物に影響を与えるためにはクリナをリットル当り35〜360ml必要だとするものも居ます。ある研究者はルーメン内でのエセンシャル・オイルスの影響を求めるのならば、揮発性脂肪酸に対しては6日間、窒素の代謝に明らかな影響を与えるのには28日間は与えなくては駄目だと指摘しています。本報告の研究者グループは明らかにエセンシャル・オイルスでルーメンの発酵を操作できるとしています。将来は、分子レベルでの技術が進みますのでルーメン微生物の数に対しての代謝度合いなども正確に判るに従い、エセンシャル・オイルスを駆使したルーメン内環境の操作方法が出現すると指摘しています。

この報告の詳細に興味のある方は(C.J. Newbold, et al., 2006 Pacific NW Animal Nutrition Conference)を参照なさることをお勧めします。

余談ですが、将来、日本国内の抗生物質の使用は今より厳しくなる面があると思われます。その中で大麦など穀類のでんぷんや大豆ミールなどの蛋白質をよりよく利用するという面も含めエセンシャル・オイルスの利用には相応の関心が高まると思われます。現時点では、高濃度でエセンシャル・オイルスを与えることについての利害得失をコストの面からも捉える必要があるでしょう。短期的なマーケッティングの視点で安易に大量のエセンシャル・オイルスを使うことは、返って製品の正常な利用の妨げになる可能性が大きいでしょう。エセンシャル・オイルス自体が素晴らしいものであると考える専門家や技術者は増えています。日本では、安眠のために枕にエセンシャル・オイルスを染ましたり、居室や寝室の香炉に香木をたくのと同じ感覚で使用することが先鞭をつけることになるのでしょう(瀬良、2007)。

 
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