アメリカ大豆協会

瀬良英介ニュースレター

瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2007年5月 (160)

米国KFCとタコベルのゼロ・トランス型脂肪酸決定

最近、日本でも報道され関連業界では周知のことですが、米国のケンタッキー・フライド・チキン(KFC)とタコベルがフライ用オイルにトランス型脂肪酸がゼロの低リノレン酸油を米国内の全店舗で使用すると発表しました。KFCなどは何年も前からこの点について内部での調査研究をしていましたが、昨年、KFCは6ヶ月以内に新しいフライ・オイルに変更すると公表していました。この調査研究にはケンタッキー・フライ・チキンの美味しさが以前のものと変わらないという点を最大の力点に置いたとしてます。いずれにせよ、以前から米国心臓学会(AHA)と食品・医薬品管理局(FDA)は消費者に対してトランス型脂肪酸の摂取を制限したほうがよいと薦めていたのを受けての動きでした。米国でのKFCとタコベルの店舗数を合わせると1万軒を越しますから相応の影響や反応はあるでしょう。

トランス型脂肪酸というのは動物脂肪であれ植物油であれ加工段階で部分的に水素添加することで作られるものです。近年のある条件下での研究からトランス型脂肪酸は血中(血清)のLDL(低密度リポ蛋白質、俗称、悪玉コレステロール)を上昇させ、HDL(高密度リポ蛋白質、俗称、善玉コレステロール)を減少させる傾向があることが報告されています。フィードスタフス誌のR.スミス氏は、KFCやタコベル関連記事の中で低リノレン酸油にはモンサント社が開発登録した大豆の新品種であるヴィスティヴ (Vistive) を使用することでリノレン酸含有量が3%であることを指摘し、通常の大豆であればリノレン酸含有量が8%なので安定化させるためにより水素添加を必要としていると付け加えています。

ゲルフ大学のマランゴーニ教授とウォータールー大学のイジアック教授は1990年台始めからトランス型脂肪酸が飽和脂肪酸よりも心臓関係の健康を問うときに6倍ほど問題があることを指摘していますが、同時に二人は単にトランス型脂肪酸のみが心臓周辺の健康問題に絡んでいるのではないことを指摘してきました。事実上、トランス型脂肪酸が云々される以前から飽和脂肪酸の過剰摂取が心臓関係の健康にもたらす問題が数多く指摘されているのです。であるからと言って飽和脂肪酸時代に戻ることは問題の解決にはなりません。

マランゴーニとイジアックは我々が摂取する油脂そのものの量を減らすことを考えなくてはならないと指摘しています。筆者の解釈では、この場合の「我々」とはカナダ・米国などの消費者の状態を指していると推察しています。それが糖類であれ脂肪であれ明らかに多すぎるカロリー摂取そのものが子供や大人の過食症状による危険性の高い傾向の要因であることを指摘しています。私どもが摂取する食物のカロリー含量を減らすことそのものが問題を解決する方法の一部でなくてはならないと力説しています。良いものだからといってそれを取り過ぎることは決して良いことではない (Too much of something good is not good.) と指摘していますが、これは栄養代謝生理の基本が判る人なら当然の指摘です。

前述の二研究者は基本を指摘しながらも、食品中の飽和脂肪酸を増やさずに、また、食品製造業者やフードサービス業者に余分なコストや難しさを押しつけずにトランス型脂肪酸を減らし、食品中のカロリー含量も落とし健康に寄与するにはどうするかという点を違う角度から追求し、考え方を米国油化学会の最新の機関誌(2007.4.)に載せています。二人はマフィン、ビスケット、クッキー、パイやケーキなどに使うショートニングの代替になるものを追求していますが、それは食品用の液状・クリスライン・エマルシファイアーを使いナノ・レベルでの極微細な組織構造で考えた液状油と水分の混合物です。使用するのにベストな液状油は大豆油とカノーラ油だとしていますが、他にアマニ油、パーム油、乳脂なども使えるとしています。二人が開発発表したものはコーアゲル (Coagel) で商品登録されています。このショートニングの代替品は基本的には構造化した植物油で40%脂肪が少ないとしていますが、製品は従来からの油脂製造工程からは完全に違い、従来からのクリスタル化製法ではないと指摘しています。

余談ですが、飼料中のトランス型脂肪酸とその周辺については酪農ジャーナル誌に連載した拙稿を含めていくつか書いていますし、最近、日本の新聞などでも取り上げられていますので詳細は割愛します。名称については、一般的に簡単に呼ぶときはトランス脂肪と呼んでいます。これは、米国でも同じトランス・ファットです。筆者はトランス型脂肪酸というシス型に対して使う「古い用語」に慣れているのでそれを使っていますが、一般受けする用語ではありません。どちらも同じことだということを付け加えておきます。

文中にも指摘しましたように米国やカナダでのトランス型脂肪酸についての関心は国民一人当たりの決して低くない総摂取カロリーや油脂消費量によるところが大きいと思います。日本では総合的にみて若干事情が異なる面があるのでトランス型脂肪酸については、まだ現在の問題ではないとする見解が多いでしょう。その反面、食事や栄養のバランスを考えないで肥満や動脈硬化、脳梗塞を含むメタボリック・シンドローム(代謝障害症候群)に該当する人たちが居ることも事実であり、メタボリック・シンドロームの予備軍が居ることも事実です。

マーケッティングの観点からみれば、いずれの場合にせよ「新しい」話題や動きには関心が高まります。また、現在のようなネット時代ですと消費者もブログやその他の情報交換の場を通して関心を持つようになります。その場合バランスを欠いた情報や理解、或いは、正しい情報不足による恐怖心が飛び交うことがあります。面白いことに現代社会の中では、人間の健康に関することや環境に関するハード・サイエンスというものは、微細と思われるものでも一度転がりだすと関心や追求を止めることは出来ません。

最近の傾向としては、米国大豆の新品種開発には諸々の市場の要求に応えるべくある意味での差別化と付加価値が付いてきています。それは米国大豆の生産者が需要に応じた経営の面からも供給発展の面からも重要なことだからです。本トピックスのようにKFCやタコベルで使う植物油のための大豆品種やそれから派生する飼料用大豆ミールなどが、また、差別化した大豆ミールのグループ総量が即刻コモディティ大豆由来のミール流通にとって変わるほどになるとは思いません。然し、飼料製造業者の中には特定の資質を持ったミールをプレミアム契約で欲するところも増えてくることは必至です。

個人的見解ですが、例えば、メチオニンなど個別の必須アミノ酸レベルが高いミールやリンの消化吸収率が大きく改善されたミールの持続的な出現の場合、コモディティ大豆(一般大豆)やコモディティ大豆由来のミールとしてではなく、分別生産、分別収穫、分別保管、分別流通の形でプレミアムや購買量を契約して買う業者は国外でも出現するでしょう。米国国内の畜産・養鶏・養魚飼料業界の一部では、主流ではありませんが数年前からこの傾向が見受けられるようです。これらは、協会や専門学会誌からの情報のみではなく、個人的にも母校のアイオワ州立大学や他の関連機関の情報からも判ることです(P良、2007)。

 
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