北米と南米のバイオテック作物は計9300万ヘクタールを越す
バイオテック作物の生産や消費には賛否両論ありますが、将来の方向としてはとうもろこし、大豆、菜種(カノーラ)、綿花、アルファルファのみならず、他の作物もバイオテック、俗にGMOと呼ばれる作物に大部分が変わっていくでしょう。バイオテックに反対していたとされるヨーロッパ連合の多くの国々でも、将来に向けてのバイオテック導入への関心の高さは非常に強くなってきているのが実態です。ただ、ヨーロッパの消費者に街中でアットランドムに質問をすれば、ほぼ6割がバイオテック食品に反対していると云われていますから、ハード・サイエンスの裏打ちと科学的妥当性を受け入れる層が増える反面、反対を無視することもできないでしょう。反対層の多くは消費に関して賛成層とは違った流動的な面を持っていますが、そのニーズに対応する生産者層の大半も市場に対して非常に流動的な側面を持っています。それでも、内訳が入れ替わりながら一定の生産戸数は独自の価値観と市場性の中で残ると見られています。
ヨーロッパ諸国の関係業界の間では、例えばバイオテックではない大豆を買い付けることは将来難しくなるだろうと懸念する向きが非常に増えてきています。また、2050年には約90億に達する世界人口の中での農産物の需給を考えるとき、燃料用エネルギーに回される農作物がどの程度になるかも含めてバイオテック作物への関心は増大すると見られています。そして、バイオテックの開発と導入に関して先進国である米国では加速度的に多くの作物にバイオテックが取り入れられ、また、大豆のような作物については生産者側の利点から消費者側の利点と関心にバイオテック改良の焦点が急速にシフトしていくと見られていますが、これは消費者側からの要求によっておきてくるものが大半でしょう。
米国がバイオテックで進んでいることは多くの統計から判ることです。北米と南米のバイオテック作物の作付け面積は約9300万ヘクタールを越しており、その多くがとうもろこし、大豆、綿花、菜種(カノーラ)です。中国や南アフリカも決して小さくなく、中国では350万ヘクタール強、南アフリカでは150万ヘクタール弱にまで増えていますが、恐らく、最新の実態はもっと増えてきていると言っても間違いではないでしょう。日本でもバイオテックを駆使することにより、差別化作物のみならず、高齢化や国民の健康に伴う諸問題の解決につながるような農作物の研究開発が進んできていることはメディアでも紹介していますが、最近では興味本位ではなくバイオテックの必要性を真面目に取り組んで紹介しているケースが増えてきています。
前述のヨーロッパのバイオテック食品に反対しているとみられる約6割の消費者のように、日本でも街中でアットランドムに声を聞けば、ヨーロッパの消費者同様かそれ以上の反対や懸念を表明する声があるでしょう。日本の場合もハード・サイエンスの裏打ちと科学的妥当性は別にして反対を表明する向きがあるでしょう。これもヨーロッパの同様に無視することもできないでしょうから、一部の日本国内の業界では非常に困惑しているのも現実でしょう。
米国の場合、エタノール生産用に穀類を出荷する農家が増えるにしたがい、オーガニック畜産を営む農家にとってオーガニック飼料原料の入手が困難になってきている点も指摘できます。肉牛を飼育するのにもオーガニック飼料原料が入手できないので、オーガニック・ビーフと呼ばすに放牧をかなり取り入れたナチュラル・ビーフと呼ぶ傾向が出ていることも見逃せません。皮肉なことに、米国のオーガニック農家はオーガニック飼料原料を中国から輸入する傾向がありますが、中国自体は油糧種子や穀類が足りないので米国や南米からバイオテック、つまり、GMOの大豆を輸入する輸入国に転じているというのが現状でしょう。
前述のエネルギー問題については米国国内でも懸念が生じていることは事実です。母校のアイオワ州立大学の農業経済学部は農業開発関係を調べるセンターを持っていますが、穀類をエタノール生産に使うことへの食品産業などへの影響も調査しています。こういう調査には、作物の需給価格などいくつかの価格や物価に一定の値を設定してシミュレーションを行う形が使われます。とうもろこしの価格がブッシェル当り2ドル(メトリック・トン当り約8,500円)の代わりに2006年8月半ばの4ドル42セント(メトリック・トン当り約18,500円)であれば、年間の食品の総小売物価の上昇は200億ドル(2兆3000億円、1ドル = 115円換算)に達すると指摘しています。単純計算をすれば、国民一人当たり余分に払う食品物価は年間100ドル程度(11,500円程度)になるということです。そのシナリオでは原油価格がバレル当り65ドルから70ドルの幅で動き、米国のエタノール生産は2012年までに300億ガロン(約1140億トン)に達し、米国で生産するとうもろこし、小麦、その他粗穀類の半分以上を使うことになるとしています。結果として消費者にとって肉類の価格が上がり、あらゆる種類の肉生産を行ってきた畜産が減り、穀類や肉類の輸出も減るとしています。
米国の肉業界関係は、穀類をエタノールに変換してでもエネルギー確保が国の安全面から必要だとする考えを理解するとしながらも、米国の消費者にとって重要な肉(家禽、養豚、肉牛など)の生産を落とし、重要な肉輸出も落とすことが長期的にみて国内産業と国益のバランスの面からも如何なものであろうかとしている声も強くなっています。バイオテックを含む技術は可能性を特定しますが、多くの消費者はニーズの経済的妥当性を特定します。
シナリオの冒頭だけでは将来は暗いものになります。肉畜生産者や関係業界が将来に向けて考える選択肢は狭くなりますが、他方では、現に穀類の代わりに植物セルロースを効率よくエタノール生産に使う研究開発も非常に進んできています。それは、とうもろこしや大豆などの茎や葉だけのことではなく、他の非食用、非飼料用の植物をエタノール生産に利用することを想定しています。ただ、調査では米国のエタノール生産義務量を植物セルロースから得ることは難しく、将来ともとうもろこし穀類そのものに頼る必要があるともしています。ある時間を経過してみれば、予測しなかったような解決方法が台頭してきているかもしれません。日本でも一部の研究機関では、サトウキビの葉や粕、ワラ、製材くずや雑草などからエタノールを生産することが研究されていますし、廃油などからディーゼル油を生産することをもっと実践に移そうという動きがあることは周知のことです。人間が直接に使えない、或いは、食せないものからエネルギーや人間と環境に有用なものを生産するという考え方は今後更に増えることは間違いありません(瀬良、2007)。 |