産卵鶏のケージ飼育も2018年までに無くす方向
米国の鶏卵産業の代表機関であるユナイテッド・エッグ・プロデューサーズ(UEP=全米鶏卵生産者会議)は、ケージ飼育方法のあり方について消費者・スーパー関係を含む動物愛護団体と会合を積み重ねながら検討していますが、11年後の2018年を目途に段階的にケージ飼育を無くす方向で進めています。
動物愛護団体関係が全ての要請を科学的に裏づけされた形でガイドラインを産業界に対して提示することには無理があります。特に、野外での放し飼いに関するデータや鶏舎内での平飼いの場合のネスト(産卵のための巣箱)の数などを評価できるような最近の学術論文は存在していないこともあり、UEPは大学の家禽専門研究者(教授など)のグループにガイドラインの作成を要請しています。
鶏卵生産業界では時代の流れに沿って動物愛護等の考え方を考慮するサイエンス・ベースのガイドラインをすでに2001年から段階的に作ってきています。それらの中には、飼育や屠殺関係の扱い全部を一度に提示すると業界が混乱し、最終的には鶏卵の直接的、或いは、間接的な需給面で消費者が非常に迷惑する面があると推測されました。したがって、業界への取り込みは修正しながらも順次段階的に行ってきています。その最終段階の目途が2018年までにケージ飼育からケージ・フリー飼育に切り替えることをUEP認証の会員会社・農場に徹底したいとしている点です。それは施設関連業界などにも過去にないほど大きな変革を求められる内容です。
1940年台始めごろまでは、米国の鶏卵生産の大部分は専業化していない普通の農家が少数の鶏を飼い、卵を取ったあとは肉にして食べていたという時代です。大半の農家では鶏一羽当りの年間産卵数は100個程度のものでした。然し、その後で急速に専業化と大規模なインテグレーションが起きてきます。
ユナイテッド・エッグ・プロデューサーズ(UEP)の推測では、今日の米国のコマーシャル用鶏卵生産の95%がケージ飼育によるものであり、また、世界の鶏卵生産の90%程度はケージ飼育によるものであるとしています。他の生産方法は北ヨーロッパから関心が高まり広まってきたケージ・フリー、つまり、ケージを使わない飼育方法です。この方法も大別すると鶏舎の中でケージを使わないで平飼いにする方法と牧野で放し飼いにする方法とがあります。米国でのケージ・フリー養鶏は現在のところ鶏卵生産の5%程度を占めていると推測されています。米国のUEPには、ケージ飼育養鶏とケージ・フリー養鶏の生産者双方が会員として加入しています。
そもそもUEPは動物愛護の動きが台頭してきた1980年台にすでに業界としては最初の一般的なガイドラインを出しています。当時のサイエンスに基づいたアニマル・ハズバンドリー・ガイドラインと呼ぶものをUEPが最初に作成したのは2000年10月です。そのときから修正、加筆、新規に加える項目が増えました。ケージ・フリーで産卵養鶏を行うときのガイドラインを順次作成していくための独立した学術委員会結成をUEPが要請したのが2006年です。現在の学術委員会は以下の9名で米国のそうそうたる専門家が入っています。委員の中には、世界的にも高名、日本でも広く知られている専門家もいます。委員長にミシガン州立大のアームストロング(PhD)、カリフォルニア大リバーサイド校のベル(MS)、ケストレル社(開業獣医)のチェイス(DVM)、米国獣医薬品協会のゴーラッブ(DVM)、パーデュー大のヘスター(PhD)、カリフォルニア大デイビス校のメンチ(PhD)、ワシントン州立大のニューベリー(PhD)、ミシガン州立大のスワンソン(PhD)、及び、トンプソン(PhD)です。
UEPはUEP認証の会員養鶏会社や農場のスタッフが鶏をきちんと扱うことへの実践的知識の教育にも力を入れていることで知られ、米国ではスペイン語と英語によるビジュアル教育プログラムの開発でも知られています。
ビーク・トリミングに関するガイドラインが導入されたのは2002年7月1日ですが、これなども細かい作業方法などが指定されています。そのいくつかは次のようなものです。ビーク・トリミングを行うのは生後10日かそれ以内の雛で精度の高いビークトリマーで行う。トリミングの二日前から二、三日後までは飲み水1リットルに対して5mgのビタミンKを混ぜ、場合によってはビタミンCを飲み水1リットルに対して20mg加えることにより嘴を切ったときの凝血を早め、ストレスを軽減し、脱水を防ぐ。ビーク・トリミング後、嘴が治るまで飼料と水の給与レベルは上げる。体重減少を最小にするために雛にはプレスターター、スターター、或いは、高密度のストレス用飼料をビーク・トリミング後、一週間ぐらいは与えるなど等です。
このようなガイドラインはあらゆる項目について細かく記されています。その中には、適切な換羽の方法、鶏の捕獲と輸送、鶏の安楽死の方法と鶏舎内での鶏群からの個体の間引き、バイオ・セキュリティと鶏の健康、一羽当りの床スペースなども2003年12月31日までは鶏舎当りの羽数に対しての平均で通用します。生産段階とマーケットでの混乱を防ぐためにも双方の調整に必要なレベル・プレイング・フィールド、つまり、同等の土俵で勝負できるところに持っていく調整期間を段階的に設けています。それ以後に改造したり建築した鶏舎、また、購入した器具は、2008年8月1日以後に入れる18週令から20週令の産卵鶏用の鶏舎の一羽当り最低床スペースをホワイト・レグホンの場合、一羽当り67平方インチ、赤玉産卵鶏の場合、一羽当り76平方インチと提示しています。ケージ・フリー鶏舎の場合も床スペースに占めるネスト・スペースの割合を段階的に減らし、2013年1月1日孵化の雛が産卵鶏群になるときの床スペースに対してのネスト・スペースは0%になるようにと提示しています。その他にも、とまり木、敷料、照明と明るさ、鶏舎内温度や舎内の空気の質、多層階飼育、外部へのアクセス、オーガニック生産システムでの雌鶏、UEP認証(UEPCertified)を得るための諸条件など等です。
これらのガイドラインは、まだ修正、加筆される部分があるでしょう。とりあえずUEPが2008年版として公表している内容の極一部を紹介しましたが、これから2018年までに米国の鶏卵産業の生産システムは根本的に変わる可能性があることが判ります。詳細に興味のある方はUEPのガイドラインを参照なさることをお勧めします。
余談ですが、米国の膨大な羽数を網羅する産卵鶏のケージ飼育を全面的にケージ・フリー飼育に切り替えることについての必要性には学術的にも反対を含めた異なる意見を持つ専門家が決して少なくないことを個人的にも知っています。然し、時代の流れの中でUEPがどのような形態の鶏卵生産になろうとも生産者が経営の中で任意的に受け入れるようなガイドラインを多様性と流動性を内包しているコンシューマーを考慮しつつサイエンスをベースに構築してきているのは流石であると思います。この辺りは、日本の養鶏と飼料業界にも必要なことです。それは、そう遠くない将来に向かって今までよりも更に広い視野から検討を進めておく必要があることを意味します。いずれにせよ、米国の鶏卵産業界には間違いなく起きている変革へのうねりがあることだけは確かです。筆者自身「動物」であり「人間」すので、拙論でのこれ以上のコメントは差し控えます(瀬良、2007)。 |