瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年2月 (105)

子牛の腸管内バクテリアは母乳の抗生物質残留で耐性が高まる

英国エジンバラ大学やカナダのブリティッシュ・コロンビア大学の研究者が出荷できない抗生物質を含んでいる母牛の乳を子牛に与えたときに起きる子牛の腸管内バクテリアの耐性について面白い報告をしています。


簡単に結論を述べますとペニシリンGが0、6.25、12.5、25、50μl/kgの5段階で添加されているミルクを31頭の生後4日から10日のホルスタイン子牛に31日間与えたとき、ミルクの抗生物質のレベルが上がるにつれて子牛の腸管内バクテリアの抗生物質への耐性は増加したというものです。


ペニシリンの耐性は、ペニシリンを含めたディスク、俗に言うリング・テストで行っています。ディスクの周辺のバクテリアの成長度合い(zone of inhibition)を見るものですが、ペニシリン無しのミルクを与えた子牛の肛門から綿棒で採取した糞のバクテリアの場合はインヒビションが最大(2.89±0.14mm)でしたが、ミルクの抗生物質残留が高まるにつれて糞のバクテリアのインヒビションは減り、50μl/kgのときに最低(0.70±0.10mm)でした。


抗生物質の残留濃度を調べるためには、それぞれの区のペニシリンGで処置した母牛11頭の生乳を3週間に渡り毎回の搾乳時に50ml採集し、ベータ・タクタムを検査キット(LakTek Lacstation II Beta Lactam testing kit / IdeTek Inc., Sunnyville, CA)を使って調べています。


2000年夏に行った試験ですが、ホルスタイン種子牛31頭(♀16頭、♂15頭)を生後2時間から12時間母牛につけ、試験期間の37日間は個別ペンに入れ水は自由に飲めるようにして飼育しています。生後24時間以内に母牛の初乳を最低4リットル与え、次の24時間では、その日に搾乳した初乳全部を混ぜて与えています。したがって、初乳は初産牛と経産牛のものが混ざっています。子牛には試験期間中、一日、二回新しい乳を与えています。


ベータ・ラクタムのレベルは処置した乳からの75四分位(75th quartile)を子牛に与えた最高濃度としていますが、これは、50μlのペニシリンG10,000IU/ml溶液を各1キロの生乳に加えたものに相応していました。したがって、他の区は、半分づつに希釈して使うことにより25、12.5、6.25μl/kg濃度になっています。37日目の試験最終日からは、ペニシリン耐性菌を除去する目的で、治療レベルのネオサルフェートを4日間与えています。対照区には抗生物質を与えていませんが、試験区のミルクには朝哺乳するミルクの5kgに対してペニシリンを添加しています。ペニシリンは毎週三日間続けて添加し、後半の四日間は添加していません。


この試験での子牛はニップルによる哺乳量に制限を設けていないので、哺乳量を体重の10%に制限する一般的な子牛よりも成長は高めでした。また、成長促進に貢献すると云われている残留抗生物質が効力を発揮するのは飼育環境が相対的に良くない場合に起きますから、この試験では成長促進の効果はありませんでした。一日当り増体量は、対照区、6.25、12.5、25、50μl/kg試験区の順に960g、880g、920g、990g、850gでしたし、与えたミルクの日量は朝夕の二回、同じ順序で、10.19kg、10.33kg、10.04kg、10.89kg、10.89kgでした。


以前からも種々の試験は行われていました。古い報告では母牛に抗生物質を与えたり注入した乳房炎治療後のミルクを子牛に飲ませることは健康や成長の面から問題は無いとする考え方が多いので、乳房円などの処置のために抗生物質を使用した生乳の出荷は、出荷が認められる期間までは、母乳は廃棄する替わりに子牛に与えることが一般的に行われています。


ケスラー(Kesler, 1981)の報告の中には、そのような乳を販売することは出来なくても、子牛用の経済的な代替飼料であり、自由摂取で与えられているし、ミルクに混ざっている抗生物質は成長促進にも役立つことが指摘されています。然し、ミルクの中に混ざっている抗生物質のレベルは多様であり、また、どういうレベルの処置や治療が現場で行われ、休薬期間が如何なるものであったかというような個々のケースの問題はありました。その延長線上では、抗生物質が残留しているようなミルクなどを子牛や食用に供する家畜に与える場合の家畜腸管内バクテリアの耐性問題が議論されてきていました。


研究者が終わりに指摘していることは、子牛に生乳として出荷出来ない(廃棄対象)のミルクを与えることは子牛の下部腸管内のバクテリアが耐性を増やすようになり、特に、乳房炎治療を始めた初期のミルクは抗生物質残留濃度が高いので、耐性菌が増えやすいことです。耐性ができることは子牛の健康にとっても懸念すべきことですが、同じ環境に居る人間や他の動物にとっても懸念されるべきこと(Lacey, 1987; Witte, 1998)と締めくくっています。


これはエジンバラ大学のラングフォード研究員の修士論文の一部ですが、詳細に興味のある方は米国酪農学会誌(J.Dairy Sci. 86:3963-3966)を参照なさるとよいでしょう。


余談ですが、日本でも抗生物質の使用には厳しい制限があります。抗生物質が残留している生乳を出荷して、ローリーやサイロ内の生乳を汚染した場合の責任追及と経済的なペナルティは非常に厳しい対応があることは周知のことです。然し、乳牛や乳雄などの疾病治療、また、乳房炎治療や乾乳をするときに乳頭4本に挿入するチューブなどの抗生物質が、出荷はしなくとも子牛に飲ませる初乳にある程度残っている場合はあるでしょう。また、搾乳期間中に乳房炎を併発したときも治療を行いますが、生乳を出荷できるまでの期間の廃棄処分対象の全乳を子牛や豚に飲ませることはそう珍しいことではありません。その場合、残留レベルが高ければ、そういう乳を与えられた子牛や家畜の腸管内バクテリアには段々と耐性がついてくる可能性は否定できず、現場での更なる細かい対応や指導が必要になるかもしれません。そうは言っても、やはり一番大切なことは、最終的には学歴などに関係なく、生産者自身が自分の家族を含む皆が飲食する良いものを作っている専門家であるということへの誇りと自覚が肝要です。これは、酪農だけではなく、全ての種類や分野の仕事に携わる人について言えることでもあります(瀬良、2005)。