瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年2月 (106)

乳牛への正確な飼料給与によるリンの軽減

コーネル大学(ニューヨーク州)のチェース教授をはじめ研究者グループは、ニューヨーク州デラウェア郡のキャノンヴィル・レザヴォア・ベイスン周辺にある4戸の酪農経営農家の協力を得て、農家から出るリンなどの出納を調べ、レザヴォアの汚染改善などの可能性を調べた興味ある報告をしていますので、報告の結論を含めて簡単に紹介しましょう。(注、瀬良:レザヴォアは貯水池ですが、日本の感覚では池よりかなり大きな湖であり、キャノンヴィル・レザヴォアは、コーネル大学のあるイサカ市より100キロほど東でキャッツキル山系の西北部にある流域です。)


調査は1999年12月から28ヶ月に渡って調べたものですが、牛群規模はこの地方の典型的な家族経営の大きさで、A群が78頭、B群が45頭、C群が65頭、D群が100頭です。A群とB群はタイ・ストール牛舎(つなぎ牛舎)で、飼料は購入濃厚飼料や穀類、それに自家生産飼料もTMRにしないで個体別給与です。C群とD群は同じくタイ・ストール牛舎で基本的にTMR給与ですが、若干の乾草や購入する穀類やサプリメント関係は個体別にトップドレス(ふりかけ式)で行っています。データは、毎月、乳検に合わせて飼料摂取、飼料品質、生産量などを記録し、毎日のデータとしては、気温、湿度、バルクタンクの日量、搾乳牛群の平均搾乳量を記録しています。それぞれの牛群の搾乳牛全頭については、3ヶ月ごとにボディコンディションを記録し、それぞれの農場の個体の糞は糞中のリン測定のために採集しています。更に詳しい調査方法は割愛しますが、6ヶ月ごとにそれぞれの農場の搾乳牛を3フェーズの搾乳日数別に3頭づつを振り分けられるように9頭選んでいます。


四農場の搾乳牛群用飼料は全調査期間の28ヶ月に渡りCNCPS(注、瀬良:コーネル・ネット・カーボーハイドレート・アンド・プロテイン・システムは、日本でも使われています。)を毎月使い評価しています。産乳成績や牛群の繁殖成績も毎月記録しています。糞中のリンの測定は6ヶ月ごとに行っています。リンを減らしたより正確な飼料は二つの牛群に与えられています。四つの牛群の平均リン摂取量は要求量の107%から165%ありました。リンの摂取を減らすように修正した二つの牛群では要求量の153%から111%へと減り、平均的軽減は25%でした。リン摂取と糞中排泄の推測値では、1頭当り年間11.8kg軽減しています。二つの牛群の調整を行ったあと、糞中のリン濃度は33%軽減しています。リンを減らした飼料による産乳量の低下で不利はありませんでした。農場全体のリンのマス・バランス(農場に残存するリンの量)は、二つの農場については49%減り、農場に入ってくるリンの割合で農場に残存するのが45%以下に減りました。


キャノンズヴィル・ベイスン周辺の乳牛の成牛推定頭数、7000頭から8000頭にこの調査と同じような結果が出たと推定すれば、飼料からくるリンと糞で排泄されるリンを年間64,000kg以上減らすことが出来ます。このことはキャノンズヴィル・ベイスンの農地でのリンの蓄積を遅らせ、長い目で捉えればキャノンズヴィル・レザヴォアの平均的総リンの負荷を年間50,000kg減らせることになります。


この調査報告の飼料配合では、牛群Aの高リン配合飼料と低リン配合飼料には、高リンに脱皮大豆ミールを18.75%使い、低リンには脱皮大豆ミールを34.00%という高レベルで使っています。そして、牛群Aの高リン配合飼料にはリンを0.13%含んだリン専用プレミックスを0.30%レベルで使い、合わせて第二リンカルを0.25%使っていますが、低リン配合飼料には同じリン専用プレミックスのみを0.60%レベルで使っています。また、牛群Bの高リン配合飼料と低リン配合飼料には、高リンと低リンとも焙煎大豆をそれぞれ11.25%使っています。そして、牛群Bの高リン配合飼料には、リンを2.51%含むリン専用プレミックスを3.60%使い、合わせてリンを1.25%含むリン専用プレミックスを0.12%使い、更に、第二リンカルを0.49%使っています。牛群Bの低リン配合飼料には、リンを1.25%含むリン専用プレミックスのみを0.67%使っています。


上記の牛群Aの高リン配合飼料は乾物中CPが24.40%、リンが0.94%、低リン配合飼料のCPは27.40%、リンが0.69%です。また、牛群Bの高リン配合飼料は乾物中のCPが17.34%、リンが0.62%、低リン配合飼料のCPは17.24%、リンが0.43%です。


牛郡Aと牛郡Bの農場全体の窒素、リン、カリウムについてのマス・バランスも割愛しますが、外から入ってくるこれらの栄養素は、購入穀類飼料、購入作物、敷き藁、家畜、肥料、土壌中窒素固定からくるものを出し、外に出ていく栄養素は、生乳、販売家畜、販売作物を通して出ていくものを求め、その差を出しています。


この報告の詳細に興味のある方は、米国酪農学会誌(J.Dairy Sci.87:2314-2323)を参照なさることをお勧めします。


余談ですが、近年、米国では環境汚染を軽減する飼料給与などに研究の関心が高まってきていると思います。それは、オランダや一部のEU諸国の後を追っていると言っても過言ではないでしょう。報告者が結論の一部に指摘していることでもありますが、米国北東部でのコマーシャルの酪農経営農場でのリンの軽減は飼料給与を操作することにより達成することは出来るとしながらも、その軽減の度合いは個々の農場で非常に大きな変動があることや、実践の場での難しさ、長い目で見る必要性も合わせて指摘しています。


スポット的な旱魃や天候不順で粗飼料や穀類を大量に買い付けなければならない年などは、栄養素の出納が大幅に変わりますが、同じ流域から買い付けていた場合、農場での出納は変りますが、改善したいと思う流域なり地域全体の中で捉えた場合の出納は変らないことになります。


因みに、この報告の研究者の一人、チェース教授(Dr./Prof. Larry E. Chase)は、私が尊敬している学者の一人です。チェース教授は、高名、且つ、勘所を外さない大変に優れた世界的な乳牛栄養の専門家であり、以前に筆者がアメリカ大豆協会に在籍していたころを含め、彼を日本に招聘し、また、コーネル大学におけるセミナーなどに日本からの飼料チームを数多くお連れしたことが思い出されます。


日本でも、将来の土壌や環境汚染、水源の栄養富化などを考えるときに、技術普及や農業政策などの面からは細かく捉えることへの関心と面白さがあると思います。然し、実践の場で、あまりにも細かく捉え、厳しい罰則を含めて遂行することが優先された場合は、現場では非常に難しい面が浮上するでしょう。飴と鞭の柔軟、且つ、微妙なバランスは如何なる場合にも必要なものです。そして、そのような中で経済性も考慮しながら環境改善のことを長い目で捉えて修正していく必要はあると思います(瀬良、2005)。