瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2005年6月 (114)
(114)「強制換羽を飼料給餌停止で行うことを廃止」する背景や周辺
米国の採卵農業経営者(会社)で構成されている養鶏団体であるユナイテッド・エッグ・プロデューサーズ(UEP)は、2006年1月元旦より飼料を与えないで採卵鶏に強制換羽をさせることを廃止すると最近発表しました。
飼料を「切って」強制換羽をさせる方法は米国では100年以上続いた方法です。換羽は産卵鶏の繁殖器官を若返らせ、産卵鶏の卵の生産期間を延長させることにつながるのですが、その換羽の方法の一つが飼料を与えないで鶏にショックを与えて換羽させる方法でした。この方法が最も確実にしかも簡単に結果が得られる方法であることは昔から知られていました。
この強制換羽については、私が個人的に知っている限りでも20年以上前から異論を唱えている人たちが居ました。特にここにきて、5、6年前から動物愛護団体や動物行動学者の間から非人道的な飢餓状態を作り出す飼い方である点が良くないと指摘され、飼料を与えないで鶏にショックを与えて強制換羽をさせる方法が疑問視されてきていました。
近年では、米国の鶏卵生産会社では、販売する鶏卵の約9割近くにACCというロゴをマーケッティングの観点から取得して使っています。これは、動物の飼い方がきちんとケアされているということを認証する第三セクターのロゴですが、(アニマル・ケア・サーティファイド = Animal Care Certified = ACC)の頭文字を取ったものです。
米国には多彩、且つ、多種多様なNGO / NPO 団体がありますが、その中には、動物の屠殺に同情する団体や、動物を殺す場合でも非人道的ではない方法で屠殺することが大事だということを提言している団体などがあります。そのような団体から見るとACCのロゴを鶏卵のマーケッティングの角度から取得して販売している鶏卵生産会社が、非人道的な飢餓状態を人為的に作り出し、採卵鶏に強制換羽をさせるのは如何なものかと強く指摘し始めたことが背景にあるように思われます。つまり、ACCのロゴをつけた鶏卵が販売されていれば、消費者は、卵を買うにあたり、その卵を産んでくれた採卵鶏は人道的に飼われた結果として、人間に有用な卵を提供してくれているという認識を持つことになり、そのこと自体が誤解と錯覚であると指摘しているのです。
このACCについては、( www.animalcarecertified.com ) にアクセスしますと動物を飼う場合にどういったことを守る必要があるかということを解説したスタンダード版が紹介されています。
日本の一般の方々でも、米国の動物愛護運動には似たような動きが映画の世界にもあることに気がついている方も居られるでしょう。例えば、米国の西部劇などの映画を御覧になるとカウボーイの撃ち合いの中で馬が倒れるシーンがありますが、その映画の最後に出てくる出演者やスタッフ紹介などの項目の中に、必ず、この映画に出演した馬は全て人道的に扱われ、決して馬が死んだり傷ついたり苦しい条件に晒されていないことを地域の動物愛護団体が検証し認証・許可しているものであることが書かれています。
この三月にも母校のアイオワ州立大学の名誉授賞晩餐会に受賞のために家内と出かけましたが、その折にも酪農学部の教授連との雑談でこの話題が取り上げられました。牛や豚、家禽などを使った大学の栄養や飼料給与の試験でも、地域の動物愛護団体は大学側が用意した詳細な試験実施要望書類を克明に調べ、動物愛護団体が許可しない限り研究予算も使えないし、試験開始が出来ない、という厳しい制約があることを話してくれました。同じようなことは、過去数年の間にもコーネル大、イリノイ大、ペンシルバニア州立大、ウィスコンシン大などを訪ねたときに聴かされた話ですが、現場ではそのような書類の書き方や試験方法が話題になっていました。
この話題については、私の場合、自分の年代も絡んでいるのかもしれませんが、魚の生き造りやエビの踊り食い、海から取れたての針だらけのウニを半分に割って、中身の珍味を食べたり、取れたての牡蠣やアワビを殻から剥がして生牡蠣や刺身で食べる「食文化」を持っている国から来ている者としては、前述の話題に違和感がないと言うと嘘になります。また、それ以外の社会的な理由においても違和感がありますが、反論する積もりはありません。
いずれにせよ、前述のような動物愛護の運動は、形は色々と変わるかもしれませんが、日本でも将来の畜産・飼料業界や研究機関に何らかの形で波及するようになることは必至であろうと思います。その場合、米国や欧州からの波及や影響が主な誘引となるのではなく、恐らく、日本国内の多様な価値観を持つようになる消費者の認識や関心によって起きてくるのであろうと思います(瀬良、2005)。