瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年7月 (116)

畜産、環境、農村社会との関連

アイオワ州立大の畜産学部、作物学部、経済学部、社会学部などから、ホグバーグ(Hogberg, M.G.)やラスリー(Lasley, P.)を含む6名の研究者グループ (M.G. Hogberg, et.al., 2005) が畜産、環境、農村社会との関係について有意義な論文を著わしています。一言でコメントできることではありませんが、強いてポイントを挙げれば、畜産が存続するためには環境と農村社会のことを考慮し、相互に尊重しあいながら倫理に基づいた接点を流動的、且つ、総合的な価値観の中で構築していかないと難しくなるということでしょう。


その論文の一部を簡単に拾い出してみますとアイオワ州の農家や農村に住んでいる人たちがよしとして受け入れられることは次のような点です。(1)バイオテクノロジーを農産物や農業生産に使う面を増やす、(2)ローカルでの畜産や穀類の扱い処理を増やす、(3)農村のインフラ、例えば、道路、学校、家屋などを整備する、(4)州として農産物の輸出を強化する、(5)農業生産をスペッシャイリティ・クロップ生産などを含め多角化する、(6)現存する産業の維持拡大に努める、(7)若者を州に留めるための税制上の考慮を図る、(8)大学による経済開発に力を入れるなどです。また、一般的に賛成できないとしていることは次のような点です。(1)周辺の州の人口増加に合わせて人口増加を図る、(2)カジノと競馬場設置を増やすこと、(3)ツーリズムの一環としてギャンブルが出来る機会を与えるなどです。更に、農家や農村地帯の住人が好ましいと考えている活動には、ファーマーズ・マーケット、風車(風力発電など)を設置している農場です。刑務所、ゴミの埋立地、屠場、汚水処理場などはそれなりに必要な施設としてあるレベルを受け入れる心積もりがあるようですが、大型の豚舎はそれらよりも低い評価になっていることです。


最近の調査では、農業生産から入る郡の収入が10%高かった場合、群の収入の伸びは7.7%低下し、一人当たり収入では100ドル低かったとしています。同じく、畜産からの収入の伸びが10%高かった場合、群の収入は0.5%増加し、一人当たり収入では77ドル高かったとしています。1990年にアウトドア・リクリエーション施設を10%余分に持っていた郡は2001年には一人当たり収入が180ドル高かったとしています。そして、このようにアウトドア・リクリエーション施設を増やしてきているところでは、畜産を始めたり拡張するときに地域の理解を得ることが必要であるともしています。


1998年の報告では、母豚3400頭の一貫生産の場合、新規の雇用が21人増え、間接的な仕事が19件増え、その経営がローカルで所有しファイナンスされている場合、新しく約100万ドルの収入が増えるとしています。更に、このサイズの経営になると地域の学校で就学児童が新たに10人増え、土地税収が2万7000どる新たに増え、州段階での収入税が6万5000ドル増えるとしています。


畜産学者は、これらを総合的に考えた場合、農場での意思決定のプロセスは複雑になってきており、もはや生産者が生産効率と利益のみで物事の決断が出来ないところにきているとしています。むしろ、決断をする場合は環境への影響、また、それらの活動が如何にローカル・コミュニティに貢献するかを考えなくてはならないところに来ているとしています。これからの畜産活動や研究活動などは、該当する地域社会が持つ価値を尊重し、地域環境への影響を考慮し、それらを詳細に評価し、洗練化し、これらの研究や畜産活動、また、テクノロジーが、社会への影響とコストを最小化するためのビジネス・システムを構築していかなくてはならないとしています。そして、最大の課題の一つはサステイナビリティ(sustainability = 持続性)が如何にあるべきかという点でしょう。この論文の詳細に興味のある方は(J.Anim.Sci.2005.83 E.Suppl.: E13-E17)を参照なさると良いでしょう。


余談ですが、ホグバーグ先生グループの論文は、2004年7月にミズーリ州セントルイスで開かれた米国畜産学会シンポジウムで「倫理と食物のコスト」と題して発表なさった内容を纏められたものです。この春にアイオワ州立大・酪農学クラブが年に一人選ぶ名誉卒業生として選ばれましたので、授賞式・バンケットに家内と出席いたしましたが、その時にもホグバーグ先生や他の畜産の先生も畜産が環境と地域社会とどう共存していくかが今後の課題だろうと話しあっておられました。ある意味では、日本や欧州の後を追うことになるのだろうとも言っておられました。


日本は、この面ではあたかも進んでいるように見受けられますが、個人的には、持続可能な畜産や農業をこれから如何に維持するかという難しい時代に差し掛かるのではないかと思っています。何故ならば、地域での規則や制度、また、国の制度だけを制定・整備しても、現場では解決にならない側面が多々噴出してくるからです(瀬良、2005)。