瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年8月 (117)

フィターゼが養豚中期の粗蛋白質やアミノ酸の消化に直接に与える影響は無い

カナダのアルバータ大やメキシコの農業科学研究所の研究者グループ(Sauer,C.W.ら、計6名)は、DSMフードスペシャリティーズ(オランダ)やアルバータ畜産開発基金などのサポートを得て、グローワー豚用の高フィチン、或いは、低フィチン飼料にフィターゼ(ナチュフォス)を添加した場合の粗蛋白質、アミノ酸、及び、総エネルギーの見かけの回腸(小腸末端)消化率、また、粗蛋白質、及び、総エネルギーの見掛けの全消化管内消化率(糞中消化率)に与える影響を報告しています。


報告の結論としては、フィターゼ(ナチュフォス)を高フィチンリン、或いは、低フィチンリン飼料に添加しても、粗蛋白質、必須アミノ酸、及び、総エネルギーの見掛けの回腸消化率には影響を与えず、また、粗蛋白質と総エネルギーの見掛けの全消化管内消化率にも影響を与えていないということです。


また、もしフィターゼ添加への反応が起きたとしても、それは飼料中のフィチン含有量とは別個のものであるともしています。そして、フィターゼ添加が蛋白質やアミノ酸の消化率を改善するかもしれないという要因を評価することに焦点を置いた研究を将来行う必要は無いと指摘しています。


この研究では二種類の基礎飼料1kg当りにフィターゼ(Natuphos)を2000フィターゼ単位(FTU)添加して、総エネルギー(GE)、粗蛋白質(CP)とアミノ酸(AA)の見掛けの回腸消化率(AID)、及び、粗蛋白質(CP)と総エネルギー(GE)の見掛けの全消化管消化率(ATTD)を調べるために行ったものです。基礎飼料は粗蛋白質(CP)18%含有で飼料原物中のフィチンリン含有が低い(0.22%)飼料と高い(0.48%)飼料になっています。高フィチン飼料には米ぬかを20%入れています。この原料は豊富なフィチンの給源ですが、原料本来のフィターゼ活性は低いことで知られています。試験にはTカニューレ装着の8頭の去勢豚(平均開始体重=40.6kg)を使い、4種類の飼料を4×4ラテン方格法で与えています。飼料給与(維持要求日量=代謝エネルギー(ME)の2.4倍)は、一日二回(午前8時、午後8時)等量に与え、各給与試験は14日間です。消化を調べるマーカーにはクロム(Chromic oxide)を使っています。


総エネルギー(GE)、粗蛋白質(CP)とアミノ酸(AA)の見掛けの回腸消化率(AID)、及び、粗蛋白質(CC)と総エネルギー(GE)の全消化管内消化率(ATTD)は、高フィチン飼料のほうが低フィチン飼料よりも低かったのです(P<0.01)。グルタミン酸を除いてフィターゼ添加は粗蛋白質(CP)とアミノ酸(AA)の見掛けの回腸消化率(AID)に影響を与えませんでした(P>0.10)。フィターゼは粗蛋白質と総エネルギーの見掛けの全消化管内消化率にも影響を与えませんでした(P>0.05)。これらの結果から、もしフィターゼ添加に反応が起きても、それは飼料中フィチン含量とは別個のことであることを示しています。


高フィチン・低フィチン試験飼料設計 (%、原物)

    

                                        高フィチン                        低フィチン

0 FTU/kg 2,000 FTU/kg 0 FTU/kg 2,000 FTU/kg
とうもろこし 29.49 29.49 32.12 32.12
コーンスターチ ――― ――― 15.00 15.00
米ぬか 20.00 20.00 2.00 2.00
大麦 15.00 15.00 16.00 16.00
小麦 5.00 5.00 5.00 5.00
大豆ミールCP48% 19.00 19.00 25.00 25.00
カノーラ・ミールCP37% 5.00 5.00 2.00 2.00
カノーラ油 4.20 4.20 0.40 0.40
モノ2リンカル* 0.33 0.33 0.60 0.60
石灰石 1.10 1.10 1.02 1.02
食塩 0.35 0.35 0.36 0.36
L・リジンHCL 0.04 0.04 ――― ―――
塩化コリン* 0.05 0.05 0.05 0.05
ビタミン・プレミックス* 0.10 0.10 0.10 0.10
ミネラル・プレミックス* 0.10 0.10 0.10 0.10
クロム(マーカー) 0.25 0.25 0.25 0.25
ナチュフォス ――― ―――

* 注: モノ2リンカル=21.0% P, 15.0% Ca, 2.1g F/kg, 9.0g Fe/kg
      塩化コリン=塩化コリンを60%含有

    ビタミン・プレミックス(飼料1kg中供給量)=vitamin A(vitamin A acetate), 12,000 IU;       vitamin D3, 1500 IU; vitamin E(dl-alpha-tocopheryl acetate), 50 IU; vitamin K3       (menadionedimethylpyrimidinol bisulfite), 1.5 mg; riboflavin, 5.5 mg; niacin,       25 mg; d-pantothenic acid(calcium pantothenate), 15 mg; vitamin B12, 0.02 μg.


    ミネラル・プレミックス(飼料1kg中供給量)=Fe(ferrous sulfate), 135 mg; Zn(zinc       carbonate), 135 mg; Cu(copper sulfate), 20 mg; Mn(manganese sulfate),
      40 mg; I (potassium iodate), 0.5 mg; Se(sodium selenite), 0.3 mg.



この試験のアミノ酸の消化率を含む詳細な結果に興味のある方は米国畜産学会誌(J. Anim.Sci. 2005.83:2130-2136)を参照なさると良いと思いますが、冒頭の簡単な結論でかなり言い得ているように思います。


余談ですが、この試験の研究者グループも論文中で指摘しているように養豚飼料への微生物フィターゼは、植物原料に由来するリンの吸収や利用を改善することが良く知られていることです。また、過去のいくつかの試験では、豚のアミノ酸の見掛けの回腸消化率が向上したことが報告されていますし、同様の報告は家禽にもあります。然し、他の報告からはフィターゼ添加によりアミノ酸の消化率が向上したという結果はまったく得られていないと指摘しています。


この研究者グループは、フィターゼ添加に対してアミノ酸の見掛けの回腸消化率の反応は飼料中のフィチンの含有量と原料中の本来のフィターゼ活性ではないかと仮定しています。言い換えれば、粗蛋白質とアミノ酸の見掛けの回腸消化率に対してプラスの反応があるとすれば、それはフィチン含有量が低く、原料中の本来のフィターゼの活性が高いときではなく、むしろフィチン含有量が高く、原料中の本来のフィターゼの活性が低いときにプラスの反応が出るのであろうとした点です。したがって、研究者グループは高フィチンリン飼料と低フィチンリン飼料の二種類を仮定の証明に考えています。高フィチン飼料には米ぬかを20%使っていますが、それは、米ぬかのフィチン含有量が高く、原料本来のフィターゼの活性が低いことによるとしています。


アミノ酸の回腸消化率はどうあれ、植物性原料中のフィチンリンの利用を高めることについての関心は、ここのところ米国においても非常に高まってきていることは事実です。方向としては二つ出てきています。それは(1)フィターゼを添加して使うことと(2)植物の遺伝的な改良(例えば、大豆のフィターゼを上げること)によって植物中のフィターゼの含有量を上げる二点が関心ごとです。特に、後者の場合、植物性原料中のリンや他のミネラル類を単胃動物や家禽が相対的によりよく消化吸収することの必要性を考えているからでしょう。その背景には、リンという高価で有限なミネラルを無駄なく家畜生産に利用し、また、余分なリンの排泄を排除して環境問題の改善を考慮するという視点が入っているのだと思います。この点については、先月の飼料・畜産トピックス116号にも「畜産、環境、農村社会との関連」と題してホグバーグ先生たちの報告と日本国内の場合についての個人的な見解を書き記しました(瀬良、2005)。