瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2005年11月 (123)

鶏卵へのオーガニック・イースト・セレンの効果

イリノイ大学の研究者(Univ. of Il. P.L. Utterback & C.M. Parsons)とダイアモンドVミルス社(Daiamond V Mills, Inc., I. Yoon & J. Butler)がオーガニック・イースト・セレンの鶏卵への移行に関して興味ある短い「リサーチ・ノート」を米国家禽学会誌に発表しています。

 

  結果を簡単に先に述べますと、イースト・セレンと亜セレン酸ナトリウム(Naセレナイト=俗称、無機セレンの一つ、注、瀬良)の二種類のセレン給源を与えられた試験区の鶏卵は、セレン含量が低いセレン無添加区の鶏卵と比べ、セレン含量は給与期間4週目と8週目において高かったというこです(P<0.01)。 また、イースト・セレン添加区の飼料を摂取した8週目の鶏の鶏卵は8週目の無添加区飼料給与のそれに比べ鶏卵のセレン含量が4.8倍高く、亜セレン酸ナトリウム(Naセレナイト)添加区は無添加区に対して2.8倍高いということでした(P<0.01)。

8週目の鶏卵中のセレン含量は、対照区(無添加区)が0.065ppm、亜セレン酸ナトリウム区が0.182ppm、セレン・イースト区が0.311ppmでした。この試験の結果からは、セレン・イースト入り産卵鶏の飼料は、鶏卵のセレン含量を増やすのに大変に効果的であることが示されていると研究者は結んでいます。

 

 この試験は90羽の産卵鶏・ハイラインW−98(26週冷)を使い、オーガニック・セレンの給源に使ったイースト・セレンを評価をするものでした。試験開始前の22週令から4週間、低セレンのとうもろこし・大豆ミール飼料を試験開始前の調整飼料として与え、対照区と試験区二つの計三種類の試験に供試鶏を使っています。対照区(低セレン区=セレン無添加区)が基礎飼料ですが、試験区の一つには、亜セレン酸ナトリウムを使いセレンを0.3ppm添加したもので、二つ目の試験区は、セレン・イーストを使い、セレンを0.3ppm添加したものでした。これらの飼料のセレン含量は、対照区(無添加区)が0.11ppm、亜セレン酸ナトリウム添加区が0.38ppm、セレン・イースト添加区が0.34ppmでした。試験飼料は、それぞれ3羽からなる10回複数反復のグループに入れ、8週間の試験(26週令から34週令)で行っています。鶏卵中のセレン含量は、0週目、4週目、及び、8週目に測定しています。鶏卵中の0週目(試験開始時)のセレン含量は、それぞれの区で似通っていました。

 

対照区と試験に使った基礎飼料の設計は次のようなものでした。

産卵鶏用基礎飼料

原料

(%)

粉砕とうもろこし

62.74

脱皮大豆ミール(デハル・ミール)

26.26

石灰石

8.85

第二リンカル(2カルシウム・燐酸)

1.25

食塩

0.30

セレン無しのミネラル・ミックス

0.20

ビタミン・ミックス

0.20

dl―メチオニン

0.10

塩化コリン

0.05

 

基礎飼料:CP18%、カルシウム3.73%、非フィチン燐0.35%、飼料1kg当り代謝

エネルギー 2,740 kcal ME/kg NRC(1994)年版飼料成分表を使った

セレン無しのミネラル・ミックスが飼料1kg当に供給する値:マンガン(Mn)が75mg(硫酸マンガンより)、鉄(Fe)が75mg(硫酸鉄より)、亜鉛(Zn)が75mg(酸化亜鉛より)、銅(Cu)が5mg(硫酸銅より)、ヨウ素(I)が0.35mg(ヨウ素カリウムより) 

ビタミン・ミックスが飼料1kgに供給する値:ビタミンA = 4400 IU (from vitamin A acetate);コレカルシフェロール = 1000 IU; ビタミンE = 11 IU (from alpha-tocopheryl acetate); ビタミンB12 = 0.011mg; リボフラビン = 4.4mg; D−パントテン酸 = 10mg; ナイアシン = 22mg; メナジオン(menadione sodium bisulfite complex) = 2.33mg

 

研究者は、人間の食事のセレン含量が低いことが癌との高い相関があることを指摘し、セレン・イーストを産卵鶏に与えることは卵の販売に付加価値を与えることになるかもしれない、としています。

 

この報告は、論文として発表されたのではなく、学会誌に2ページの短報(リサーチ・ノート)として発表したものですが、その原文に興味のある方は米国家禽学会誌(2005 Poultry Science 84:1900-1901)を御覧ください。

 

余談ですが、セレンを添加しない低セレン基礎飼料設計は、とうもろこしと脱皮大豆ミール(デハル・大豆ミール、通常、CP48%程度)を主な原料として設計しています。本文にもありますようにセレンを添加していない基礎飼料の原料中のセレン含量は0.11ppmですから、米国では、無機セレンやオーガニック・イースト・セレンなどで0.3ppmのセレンを添加するのは一般的になってきています。協会に在職当時、無機の亜セレン酸ナトリウム(Na セレナイト)やセレン酸ナトリウム(Na セレネイト)を乳牛に添加する必要性を説き、米国からも何人もの乳牛や豚の専門家を招聘した1970年代後半から1980年代後半にかけての活動を思い起こすと隔世の感があります。

 

セレンの土壌中のレベルは一般的にはミシシッピー河の東側の州の土壌中のセレンが低めで、西部山岳地帯に向かって行くにしたがい、セレンが高くなり、場所によってはセレンが高すぎて馬など家畜に障碍が出ることもあります。米国のとうもろこしや大豆の大半は、NRCの飼料成分表などでも明らかなように、概ね、0.06ppmから0.10ppm程度のものが多いでしょう。個別に穀類や大豆をロットごとに分析すれば、前述の数値よりも高い場合もあります。

 

FDA(米国医薬品管理庁)が全ての家畜・家禽に対してセレンを0.3ppm添加するのを認めたのが1987年ですが、そこに至るまでの経緯には永い歳月を要し、豚と16週令までの家禽配合飼料に0.1ppm、七面鳥に0.2ppmのセレン添加を初めて認めたのは、実に栄養学者達が単胃動物に対してセレンが必須であることを報告し、反芻獣に対してもセレンが必須であるという報告を出してからほぼ17年から22年経過しています。この経緯の背景にはセレンの毒性が強いというそれまでの考え方が米国の飼料業界に浸透していたことも挙げられます。私が母校のアイオワ州立大学で家畜や乳牛飼料の栄養概論などを取っていた1960年代始めでも、セレンを間違って多量に与えることへの現場への警告のほうが、セレンが必須微量栄養素であるという視点より強かったことを記憶しています。

 

ジョージア大学の高名な家禽学者、ニック・デールは、同じ大学のエイミー・ベイタルと共同でフィードスタフス誌の2006年版年鑑の冒頭に飼料分析表を載せています。この膨大な成分表にも、デハル・大豆ミールと通常の大豆ミールのセレン含量は0.10ppmを載せています。また、粗蛋白質はデハル大豆ミールが原物中(乾物88%)でCP47.8%、通常の大豆ミールが原物中(乾物90%)でCP44.0%を載せています。とうもろこし(黄色、デント)は、0.08ppmのセレン含量を載せており、粗蛋白質は原物中(乾物87%)でCP7.5%を載せています。

 

考えてみれば、大豆ミールは高品質の蛋白質や油分を持ち、とうもろこし等はエネルギー源としての炭水化物などの部分が重要であり、双方とも嗜好性に優れ、補完関係が最適な二原料であることが知られています。また、重要な栄養素単位当りの経済価値も他の原料よりも優れている場合が多いことも指摘できます。従って、セレンのような必須微量ミネラル類やいくつかのビタミン類などは、大豆ミール・とうもろこしなどが主な原料である飼料を補佐する形で、家畜・家禽が必要とする微量要素の要求量の部分を上限安全値を考慮した上で飼料に添加するという考え方が一般的に定着しているという点も指摘しておきたいと思います(瀬良、2005)。