瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2006年2月 (129)

エクストルード大豆とパーム油・魚油製品などを与えた乳牛の乳汁とチーズ

ユタ州立大学の研究者グループ(T.R. Dhimanら、計6名)が中心になり産乳牛にエクストルード大豆、大豆油、パーム油・魚油Ca塩などを与えたときの牛乳とチーズの複合リノール酸(CLA)の出来具合や風味などを含めたかなり詳細な報告をしています。簡単な結論は次のようなことです。

 

パーム油・魚油Ca塩を単独で与えた場合、或いは、エクストルード全脂大豆か大豆油と組み合わせて与えた場合、乳汁中とチーズ中の複合リノール酸(CLA)、バクセン酸(VA)、総不飽和脂肪酸、及び、n-3系脂肪酸(FA)は乳牛の成績(栄養摂取量、乳量、乳組成分など)を下げず、また、消費者が受け入れる牛乳とチーズの風味特性を損なわないことが示唆されました。

 

試験には産乳日数が165日±61日、産乳日糧が46.6kg±5.3kg、試験開始時体重が756.1kg±47.4kgのホルスタイン経産牛を20頭使い、ランドム・ブロック法で下記の4区の対照区と試験飼料の給与試験を飼料慣らしの3週間を含めて全6週間の試験として行っています。

 

表1のユタ州立大学の対照区飼料を含めた試験飼料設計(乾物中)と設計の注は論文より一部抜粋しました。、また、乳汁中の分析結果の極一部を表2に論文より抜粋しました。表1の設計は、産乳日量が50kg、乳脂補正値(FCM)3.5%の栄養要求量(NRC 2001)に合わせて組まれています。


表1 ユタ州立大・試験飼料設計(乾物中)と論文より抜粋、:瀬良

試験飼料

 

 

 

 

対照区

(CTL)

44%粗飼料

56%濃厚飼料

パーム・魚油Ca塩

(CaPFO)

パーム・魚油Ca塩(CaPFO)+

エクストルード

全脂大豆

パーム・魚油Ca塩(CaPFO)+

大豆油

原料

g/100g DM(乾物)

アルファルファ乾草

32.00

32.00

32.00

32.00

コーン・サイレージ

12.00

12.00

12.00

12.00

蒸気圧片とうもろこし

19.70

17.00

15.50

15.25

圧片大麦

7.60

7.60

7.60

7.60

ジスチラーズ・ドライド・グレイン

4.00

4.00

4.00

4.00

(CaPFO)パーム・魚油カルシウム塩

――

2.70

2.70

2.70

エクストルード全脂大豆

――

――

5.00

――

大豆油

――

――

――

0.75

綿実(linted:綿を除去した)

5.90

5.90

5.90

5.90

乾燥ビートパルプ

6.00

6.00

6.00

6.00

ソイベスト

9.50

10.00

6.50

10.00

糖蜜

1.20

1.20

1.20

1.20

1燐酸ナトリウム(含有率、P最低26%,

Na最低19.3%、フッ素(Fl)最高0.003%

0.20

0.20

0.20

0.20

カルサイト (Ca含有、36%-38%)

0.50

――

――

――

イースト・カルチャー

0.20

0.20

0.20

0.20

重炭酸ナトリウム

0.70

0.70

0.70

0.70

微量ミネラル塩

0.30

0.30

0.30

0.30

ビタミンADEミックス

0.20

0.20

0.20

0.20

 

 

 

 

 

化学分析値 g/100g DM(乾物)

 

 

 

 

DM (乾物)

62.0

62.3

62.3

62.5

NEL Mcal/kg DM

1.63

1.72

1.73

1.75

CP %

16.6

16.6

16.8

16.6

総脂肪酸

4.61

6.28

6.77

6.62

NDF (中性デタージェント繊維)

34.5

34.4

34.5

34.3

ADF (酸性デタージェント繊維)

21.9

21.9

22.5

21.8

Ca

0.78

0.90

0.91

0.90

P

0.41

0.40

0.40

0.40

注A:供試牛には対照区飼料、対照区飼料とパーム・魚油Ca塩を2.7%、対照区飼料にパーム・魚油Ca塩を2.7%+エクストルード全脂大豆 を5%、或いは、対照区飼料にパーム・魚油Ca塩を2.7%+大豆油を0.75%与えた。

注B:ルーメンで不活性のパーム・魚油Ca塩(Bioproducts, Inc., Fairlawn, OH)には、脂肪が最低85.0%、Caが10.5%、Pが0.01%、Mgが0.1%、Kが0.08%、Naが0.012%、Znが2mg/kg、Mnが5mg/kg、Cuが1mg/kg含まれている。

注C:(Insta-Pro Int., Div. of Triple “F” Inc., Des Moines, IA)のエクストルーダーを使い146℃〜149℃で処理

注D:(Grain States Soya, Inc., West Point, NE)製造

注E:(Diamond V, Inc., Cedar Rapids, IA)製造

注F:含有割合:NaClが95%-97%、Znが0.55%、Mnが0.55%、Feが0.35%、Cuが0.14%、Iが0.008%、Seが0.006%、そして、Coが0.002%。

注G:含有量:kg of DM(乾物1kg中):ビタミンAが1,102,500 IU、ビタミンDが330,750 IU、そして、ビタミンEが6,615 IU。

注H:使用したNE(Mcal/kg DM)正味泌乳エネルギー(NRC, 2001):

アルファルファ乾草:1.32、 コーン・サイレージ: 1.38、 コーン:2.01、大麦:1.86、

ジスチラーズ・ドライド・グレイン: 1.97、パーム・魚油Ca塩: 5.02、

エクストルード全脂大豆:2.21、大豆油:5.65、綿実:1.94、乾燥ビートパルプ:1.47、

ソイベスト:2.13、糖蜜:1.76

 

表2 ユタ州立大・試験飼料給与牛の乳汁中の脂肪酸組成より一部抜粋:瀬良

飼料試験区

 

 

対照区

(CTL) 

パーム・魚油Ca塩

(CaPFO) 

パーム・魚油Ca塩(CaPFO)+

エクストルード

全脂大豆 

パーム・魚油Ca塩(CaPFO)+

大豆油 

 

 

SEM

脂肪酸 (FA)

g/100g FA (脂肪酸100g中g)

CLA c-9,t-11

0.56

1.20

1.36AB

1.74

0.13

総CLA

0.61

1.27

1.44AB

1.82

0.13

C18−1t-11(VA)

バクセン酸

3.29

4.66

6.34AB

23.6

0.71

C18−1c-9

21.0

25.0

25.4

23.6

0.71

総n-3系脂肪酸

0.62

0.69

0.69

0.67AB

0.02

飽和脂肪酸

66.7

60.2

57.7

58.3

0.87

不飽和脂肪酸

33.3

39.8

42.3

41.7

0.87

注1、注2、注5、及び、注6:p < 0.001

注3:p < 0.01

注4:p < 0.05

 

複合リノール酸(CLA)を増やした牛乳やチーズの味覚試験は、それぞれが10項目以上からなる詳細な試験をしています。それらの結果は、全体的な風味などに付いての統計的な有意差は無くても不飽和脂肪酸の多い飼料を与えたときのそれなりの数値は他の研究同様に示唆されています。チェダー・チーズの場合、酸化臭はバキュームパックをして4℃で21日から30日熟成したマイルド、熟成期間が約90日のミディアム、熟成期間が180日+のシャープと分けたとき、マイルドの酸化臭が上がっていますが、シャープになるとマイルド同様に下がっています。ここから、研究者らは、ミディアムからシャープになると風味が抜けたようなやや酸化した感じ(オフ・フレーバー)がシャープな風味で覆われるのではないかとしています。

 

この報告は、かなり膨大なものですが、冒頭と表と注の中で触れた結果などの部分でも傾向はお判りになります。詳細に興味がある方は、米国酪農学会誌(2006, J. Dairy Sci.89:234-248)を参照なさることをお勧めします。

 

余談ですが、牛乳やチーズ製品の中での複合リノール酸(CLA)を増やすということは、抗がん性があるということで、米国でも一部の乳製品メーカーや飼料会社は関心を示しています。不飽和脂肪酸を増やした豚肉を食べることは、魚を食べることに似ているので、一部の食肉メーカーやスーパーが心臓病や動脈硬化の軽減に関心を示しているのとやや同じ範疇に入るものです。

尚、食品化学や農芸化学技術者の方々は良く御存知のことですが、大豆油の半分はリノール酸という素晴らしい脂肪酸で、風味豊かな植物油ですが、リノール酸はn-6系です。そして、リノール酸の記号を書けばC18-2、或いは、C18-2、C18:2などとも書きます。左側の炭素から数えて6個目に2個あるうちの最初の二重結合があるので、n-6系と呼ばれるるのです。言い換えれば、最初の二重結合がメチル基側(以前は、オメガ側と呼んだ)から数えて6番目の炭素にあるということです。二重結合が2個ありますから多値不飽和脂肪酸の一つでもあります。

 

オレイン酸は、二重結合が1個しかありませんから、一価不飽和脂肪酸とも呼ばれます。オレイン酸は最初の二重結合がメチル基側の炭素から数えて9番目にありますから、n-9系です。オレイン酸の式を書けば、C18-1、或いは、C18-1とも書きます。同じように、n-3系として有名なのは、アルファ(α)リノレン酸(C18-3)で、二重結合が3個ありますから、多値不飽和脂肪酸の一つです。それに比べ、飽和脂肪酸は、二重結合がありません。ステアリン酸は飽和脂肪酸の一つで炭素が18個あり、二重結合が無いので、C18-0と書きます(瀬良、2006)。