瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2006年4月 (134)
豚への短期トリプトファン添加と大豆ミール
養豚用飼料に使う植物性飼料原料などに加えてアミノ酸を使う開発・研究も増えています。最近では豚の飼育にトリプトファンを短期間、補助的に使うことで肥育前期・仕上げ期豚の行動などを修正できるか否かを調べる優れた合同試験報告がカナダ・サスカッチワンのプレイリー養豚センター、アイオワ州エイムスの養豚臭・糞尿管理研究ユニット(USDA-ARS)、及び、ミシシッピー州立大学から発表されています。
それは大豆ミールなど植物性蛋白質原料や他の動物性蛋白質原料を一切使用しないで、とうもろこしとコーングルテンミールのみを使った飼料を対照区にして調べた報告です。これは、トリプトファンそのものが豚の行動などに与える効果を観察・測定するのには優れた試験方法です。対照区飼料の総トリプトファン・レベル(0.11%)を基礎飼料として、対照区の飼料にL―トリプトファン(バイオキョーワ・ミズーリ州)を添加して、2倍(0.23%)、4倍(0.43%)の総トリプトファン量になるように調整しています。
本トピックスは、有意義、且つ、優れた上記の研究を詳細に御紹介するのが目的ではありませんが、報告を構成している三つの試験では、成長、攻撃性や穏やかさ、ハンドリングや肉質などを観察・測定するために考えられており、総頭数としては440頭ほど使って行った膨大な研究報告です。飼料の計算分析値としては、3,325kcal DE/kg, 13.7% CP, 0.78% 総 Lys., 0.55% Ca., 0.17% 有効P。総トリプトファン%は対照区、対照区の2倍、対照区の4倍の値が、それぞれ0.11, 0.23, 0.43%です。
本試験の場合、研究者グループは、高トリプトファン・レベルを与えた2区では、数日で豚が横になっている(静かにしている)時間が多くなり、食べる時間が少なくなるなどと行動に影響が出ることを指摘しています。トリプトファン添加はストレスがかかるような状況を防ぐことになるとしながらも、高トリプトファン・レベル区の豚に対して強制的に加えられたストレス要因には効果が無いとしています。また、飼料中の高トリプトファンはロースの肉質(色、pH、ドリップ)には何ら影響を及ぼさなかったとしています。この研究報告の詳細に興味のある方は、米国畜産学会誌(J.Anim.Sci. 2006.84:212-220)を御覧になることをお勧めします。
余談ですが、前述の対照区を含めた試験飼料はトリプトファンの給与効果を観察・測定するための特別な飼料設計ですから、現場での一般の養豚生産者が設計をそのまま使うことは無いといっても過言ではありません。同じく、飼料会社がコマーシャル養豚飼料用に大豆ミールのような植物性蛋白質原料や他の動物性蛋白質原料を全く含まない飼料を作って販売することは皆無と言っても構わないでしょう(瀬良、2006)。
理由は、リジンやトリプトファンなどを高レベルで含む植物性蛋白質原料の大豆ミール(俗称、大豆粕:含有例;リジン=2.9%〜3.0%、トリプトファン=0.6〜0.7%)をこれまたリジンやトリプトファンが非常に低い穀類の一つであるとうもろこし(含有例:リジン=0.24%〜0.26%、トリプトファン=0.05%〜0.07%)と組み合わせることが豚の肥育前期・仕上げ期(体重約30kg前後、70kg前後、100kg前後あたり)に必要な栄養量を充足させるのに補完しあう関係にあるからです。
豚の栄養は実際には14段階程度に分けたステージ・フィーディングに細かく分かれており、成長が速く、肉量が多く、骨格の大きいタイプ、中型豚、去勢豚、肉用の雌豚や雄豚、豚種や系統などによっても栄養要求量は違いますので一概には言えません。大雑把には飼料(原物中)リジンが1.15%〜0.85%程度で始まり、0.70%〜0.50%前後まで下がるでしょうし、大雑把にはトリプトファンも同じように飼料(原物中)0.22%〜0.18%程度で始まり、0.15%〜0.12%前後まで下がるでしょう。また、アイディアル・プロテイン(アイディアル・アミノ酸)の比率を考慮する場合もあり、NRC養豚(1998、10版)の場合、リジン100に対してトリプトファンは維持が26、蛋白質の蓄積が18、乳汁生成が18、体組織が10となっていて、それらを比較検討することがあります。
加えて、とうもろこし・大豆ミール二種類のみの超単純設計だけにこだわり過ぎるとある種のアミノ酸は過剰給与になりますので、大型経営のメリットが出せるような規模の農場やインテグレーテッド・グループでは、いくつかの飼料原料や添加アミノ酸を組み合わせて無駄を省く調整をしたり、そのような飼料をつくって欲しいと要請を出す場合があります。然し、それの行き過ぎは、飼料中の必須アミノ酸が充足されているのにもかかわらず、飼料の粗蛋白質レベルが下がりすぎる結果になり、肉量蓄積の低下、体脂肪蓄積の増大、相対的な成績の低下などが起き、配合設計の修正を行わねばならないことがありますが、これらは過去の報告からも知られています(瀬良、2006)。