瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2006年7月 (140)

母豚から授乳子豚への有機と無機セレンの移行効果

有機と無機セレンなどに関する報告は、数多く発表されています。 ごく最近では、ユーンとマクミランが発表を行いましたが、前者はダイアモンドVミルス、後者はカナダ・オンタリオのメイプルリーフ・フーズ・アグリサーチに所属しています。報告の一部を簡単に御紹介しましょう。この報告の学会への提出は2005年6月10日、学会として受け付けたのが2006年2月3日で、米国畜産学会誌への掲載は2006年7月号です。

 

報告は授乳中の母豚にNRCが推奨しているセレン量(0.15 ppm)以上を含むセレン無添加飼料、或いは、セレン・イースト(有機)、又は、亜セレン酸ナトリウム(無機)を0.3 ppm 添加して与えている飼料のとき、母乳を経由して授乳子豚への添加セレンの移行が如何なるものかを調べています。

 

セレン無添加のとうもろこし・大豆ミール基礎飼料では、グレイン原料本来からのセレン含量が高い基礎飼料をネガチブ対照区(セレン含量が0.20-0.23 ppm)としています。母豚52頭に分娩前の60日目から授乳14日目まで飼料を与えています。各試験区に6頭を配置し、血清セレン濃度を調べるために分娩前の60日目、30日目、分娩時、分娩後の14日目に種付けをしています。

 

初乳は分娩後12時間以内に採集、また、母乳は産乳14日目に採集しています。血液は各試験区の12腹子それぞれかの子豚3頭づつから生まれた時点と離乳時点(14日目)で採集し、また、プールした血清でセレンとイミュノグロブリンG濃度、及び、グルタチオン・ペロキシダーゼ活性を分析しています。

 

試験区の如何にかかわらず、母豚の血清セレンは妊娠期に下がり、産乳期にしだいに増えました。セレン・イーストを与えられた母豚は分娩時の血清セレンが、セレン無添加飼料を与えられた母豚よりも高かったのです(P<0.06)。初乳と産乳(14日目)のセレン濃度は、イースト・セレンを与えられた母豚のほうが増えていましたが(P<0.01)、亜セレン酸ナトリウムを与えられた区では増えませんでした。

 

出産時の子豚の血清セレン濃度は、基礎飼料を与えられていた母豚からの子豚に比べ、イーストからのセレンを与えられていた母豚から生まれた子豚のほうが増えていました(P<0.01)。子豚生後14日目の血清セレン濃度には、いずれの飼料を与えられた母豚の試験区にも違いはありませんでした。

 

子豚の血清イミュノグロブリンG濃度とグルタチオン・ペロキシダーゼ1型活性は飼料中セレン給源の影響を受けていませんでした。妊娠豚と産乳豚にセレン添加(0.3 ppm)を有機、又は、無機の給源で与えた場合、一腹ごとの子豚の死産は減りました。然し、母豚に有機セレン(セレン・イースト)を与えた区から生まれた子豚のみが生まれたときの血清セレン濃度が高かったのです。有機セレン添加区は初乳中のセレン濃度や産乳14日目の乳汁中のセレン濃度が、無機セレン区よりは大幅に高めています。

 

妊娠豚の対照区飼料の主な原料・副原料の設計は、とうもろこしが76.95%、脱皮大豆ミールが12.90%、ソイハル(大豆皮)が4.00%、残りを油脂、カルシウムやリンの給源、微量ミネラルとビタミン・プレミックスで調整しています。計算分析値としては、13% CP, 13.25 ME MJ/kg, 0.63% Lys, 1.09% Ca, 0.79% P, 3.95% 油脂、0.25% Naなどです。

 

産乳豚の対照区飼料の主な原料・副原料の設計は、とうもろこしが 71.21%、脱皮大豆ミールが 19.65%、ソイハル(大豆皮)が 2.33%、残りを油脂、カルシウムやリンの給源、L-リジンHCL、微量ミネラルとビタミン・プレミックスで調整しています。計算分析値としては、16.00% CP, 13.50 ME MJ/kg, 0.90% Lys, 1.1% Ca, 0.80% P, 4.42% 油脂、0.30% Na などです。

 

研究者は、基礎飼料の原料本来からのセレン濃度が0.20 ppm以上と高い場合でも、妊娠豚と産乳豚の飼料へは有機セレンを給源として0.3 ppm添加するほうが有益であると報告の最後に指摘しています。この報告は、表を5点含む5枚の論文ですが、詳細に興味のある方は、米国畜産学会誌(J.Anim. Sci.. 2006. 84:1729-1733)を参照なさることをお勧めします。

 

余談ですが、有機と無機セレンが豚の筋肉組織へ蓄積する過程の研究、母豚のセレンが子豚に移行する過程の研究、基礎飼料に含まれる原料本来に由来するセレンが低いレベルで行われた試験、基礎飼料の原料本来に由来するセレンの中で有機、或いは、無機の部分が組織蓄積に貢献するのか否かを調べた研究など、過去から現在に至るまでのセレンに関する研究報告は膨大な数になります。その大半は、ある限られた条件下でどういう過程を経て如何なる結果になるかをみる研究です。それぞれの研究は、その前の研究よりは少しづつ異なる前提条件を考えて試験していますので、全体像がどういうことかということを少しづつ明らかにしてきています。

 

確かに、今から二昔前は、米国のほとんどの公的研究機関や州立大学などの研究機関の養豚栄養学者やエクステンション専門技術員は、有機セレンの代謝や効用について懐疑的でした。恐らく、この点が一番大きく変わった点でしょう。現在では、養豚飼料のみならず、他の家畜・家禽飼料に対しても、有機セレンの効用を否定的に捉える専門家は少なくなったと思われます。私も以前は、有機セレンについては懐疑的でしたが、やはり数多くの研究発表が出るにしたがい考えを変えねばならないと認識次第です。後は、有機セレンが販売されている国や、関係業界などの流動的、且つ、相対的な関係によっても違いがあると思う専門化は各国に少なくなく、直接効果対直接費用と総効果対総費用の面が検討されることがあります。

 

本報告に使われている基本飼料の設計は簡単に御紹介しましたが、面白いのはカナダ・オンタリオの民間研究所で行った試験でもとうもろこしと脱皮大豆ミール、それにソイハル(大豆皮)を使っている点でしょう。米国やカナダでは、大豆ミール(粕)については、粗蛋白質が通常の原物でCP48.5%になる脱皮大豆ミールを優先的につくりブロイラー、産卵鶏、ヒナ、子豚、子牛などの飼料に主に使う傾向があります。脱皮大豆ミールをつくったときに派生するソイハル(大豆の皮)はヘミセルロースの給源として反芻獣用に使います。

 

日本では、大豆の油糧種子の搾油行程では、脱皮大豆ミールをつくるよりも通常の大豆ミールをつくる傾向のほうが多いです。つまり原物で粗蛋白質が最低CP44.0%になるように大豆ミール(粕)をつくります。場合によっては、CP44%にこだわらず、無調整でつくり、粗蛋白質がCP44%以上や以下になったときは、CP44%をベースにして価格を上下にスライドさせる場合があります。

 

妊娠豚や授乳豚の飼料を考えると通常の大豆ミールを使うほうが使い勝手がよく妥当性が高いように思います。個人的な考えですが、分娩直前に往々にしておきる妊娠豚の便秘を改善する場合には、ソイハルを加えたり、マグネシウムを使う方法もありますが、成豚の飼料には、通常の大豆ミールのほうが良いと思います。

 

米国の場合でも同じですが、あくまでもローカルで調達できる脱皮大豆ミールと通常の大豆ミールの栄養素単価との比較で決まるものです。粗蛋白質だけで比較した場合は、脱皮大豆ミールの価格が100のとき、大豆ミールは90、つまり約10%の価格の違いで選ぶことになります。特に北米のブロイラーのインテグレーションなどの経営では、主要な必須アミノ酸の消化率までをも検討した単価、全リンの中から非フィチン態リンのみで検討した単価、フィチン態リンの結合を切るフィターゼなどの酵素で得られる単価の面でのメリットとコストの比較、配合設計ごとに変わるこれらの最終的な栄養単価などで脱皮大豆ミールを使うのか通常の大豆ミールを使うのかが決まるので、10%の価格差で比較して決めるのは単純過ぎるかもしれません。それでも実際には、簡便な評価方法として使っている方たちも居られます。原料の売り買い現場で日々苦労をなさっている方たちからみれば、複雑な比較方法は間尺に合わない、つまり現実的ではないと考えられたとしても無理はないでしょう(2006、瀬良)。