瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2006年9月 (144)
鶏卵(赤玉)の卵殻脱色(色落ち)の原因はバナジウムで、改善はビタミンC給与
簡単に結論の一部を紹介しましょう。品質の悪いリン給源には高レベルのバナジウムが存在し、それが鶏卵(赤玉)の卵殻脱色(色落ち)の原因になりますが、ビタミンCを100ppm入れることで、バナジウムが30ppmまで入っている場合でも卵殻脱色を完全に防ぎます。バナジウムが50ppmや100ppmの場合でも色落ちを防いでいます。試験飼料は、典型的なとうもろこし・大豆ミール(粕)主体の飼料です。
この興味ある研究を発表したのはフロリダ大学の合同グループで、著名なオダバッシやマイルス教授を含む計5名です。
低品質の飼料用リン給源を使ってリンの添加を行うと産卵鶏飼料に過剰なレベルのバナジウム(V)が入ることになります。家禽用飼料の飼料にバナジウム(V)があると産卵、卵白の高さ、体重、及び、飼料摂取に悪影響があることが報告されています。
この研究では、飼料中のバナジウム(V)がブラウン・エッグ(注、瀬良:日本では、通常、赤玉と呼ばれています)の卵殻の色に対しても悪影響を及ぼすことが赤玉系のコマーシャル産卵鶏を使っての試験で判りました。ハイラインの赤玉系コマーシャル産卵鶏、60週令を500羽使い、3試験(試験は細分化している)行い、飼料にバナジウム(V)が0ppm、50ppm、100ppmの3レベルで添加されている場合の卵殻への色素沈着の影響度合いを測定しています。バナジウムはNH4VO3として添加しています。
赤玉系の産卵鶏は、試験飼料の給与開始しから僅か二日目にして両レベル(50ppmと100ppm)のバナジウムに対して薄い色(赤みが少ない)の卵を産んでいます。同グループの赤玉系の産卵鶏を使ったもう一つの試験では、バナジウム濃度が低い(0ppm、15ppm、或いは、30ppm)試験飼料を与えましたが、これらも同じように卵殻の色素沈着が少なかったのです。
致命的な脱色(ブリーチング)が観察された後、これらの飼料に次の3種類の添加物の一つを添加しました。すなわち、添加無し、100ppmのビタミンC、100IUのビタミンE、或いは、100ppmのベータ・カロチンです。両レベルのバナジウム添加で影響を受けた卵殻の色を(正常に)取り戻せたのはビタミンCのみでした。バナジウムが15ppm添加されている飼料に、バナジウムの影響が出る前に予防のためにこれらの抗酸化剤を合わせて給与した場合も、赤玉系の産卵鶏に効果があったのは100ppmのビタミンCのみで、ビタミンEやベータ・カロチンからの効果はありませんでした。
この試験に使っている基礎飼料は、粉砕とうもろこしが69.18%、大豆ミール(粕)が19.07%、第二リンカルが1.02%、粉砕石灰石が9.64%、ヨウ素化食塩が0.44%、ビタミン・プレミックスが0.27%、ミネラル・プレミックスが0.27%、DL−メチオニンが0.11%、計100%です。
参考までにビタミン・プレミックスは、飼料1kgに混入する量として、ビオチンが0.2mg、コレカルシフェロールが2200IU、コリンが500mg、エトキシキンが65mg、葉酸が1mg、ナイアシンが60mg、パントテン酸が15mg、ピリドキシンが5mg、リボフラビンが5mg、チアミンが3mg、ビタミンAが8000IU、ビタミンB12が0.02mg、ビタミンEが20IU、そして、ビタミンKが2mgです。また、ミネラル・プレミックスは、飼料1kgに混入する量として、銅が10mg、エトキシキンが65mg、ヨウ素が2mg、鉄が60mg、マンガンが90mg、セレンが0.2mg、亜鉛が80mgです。
このような赤玉系の産卵鶏を系統増殖する会社では、卵殻の色を測定するためにカラリメーターを使い卵殻色の淡さ(L*)、色相を示す赤・緑系関数(a*)、同じく色相を示す黄・青系関数(b*)を使っていますが、この研究者グループは、カラーマシン・ビジョン(CMV)を使うほうがよいと薦めています。何故ならば、カラリメーター(色相メーター)は卵殻の表面の極一部を測定しますが、カラーマシン・ビジョン(CMV)は、ビデオカメラをカラーエキスパート・ソフト内臓のパソコンに接続してあるので、カメラのレンズで捉えた卵殻全体の色の具合をより正確に捉えるからです。最近のシステムでは、赤玉の表面に付着した汚れのしみの違いを検出できるとしています。
この研究論文は、分析値など表10枚を含む全8ページからなりますが、詳細に関心のある方は、米国家禽学会誌(2006. J. Appl. Poult. Res. 15:425-432)を参照なさることを強くお勧めします。
余談ですが、マイルス教授(R.D. Miles)はアメリカ大豆協会招聘講師として日本にも再度来日したことのある世界的にも高名な方ですので御記憶の方も多いと思います。また、マイルス教授夫人のパメラ・ヘンリー女史(P.R. Henry)は、これまたミネラルの研究と分析学者として大変に著名な方で、同じ大学で活躍しておられます。セレン酸ナトリウムの件では、二昔前にアメリカ大豆協会が日本に招聘し、家畜用飼料に対して、無機セレンが毒物扱いから必須栄養素に変わる米国の変遷に関する貴重な講演と故森本宏先生とのセレン対談などを残したので、業界では話題になりました。飼料技術者の間では御記憶のある方もおられると思います。マイルス・ヘンリーのコンビは現在も健在で、近年もバナジウムに関しての共同論文を種々の学会誌に発表しておられます。この当りのことは、過去の拙稿でも協会のホームページなどを通して著し、講演も行いました。
この卵殻の色は鶏卵内部の品質とは関係がないことが知られていますが、ヨーロッパ、英国、オーストラリア、アジアなど多くの国々の消費者の一部は、鶏卵の卵殻の色は白色よりも赤玉系(ブラウン系)のほうが良いと信じています。したがって、マーケッティングの観点からも、鶏卵(赤玉)の卵殻の色落ち(脱色)に関しては、数多くの研究が過去からなされています。バナジウムは極々微量では必要とされていますが、本報告のようなレベルになると赤玉の卵殻色に脱色する悪影響があるが、ビタミンCで元に戻せるというのは面白い知見です。最も、バナジウムによる赤玉の卵殻色への悪影響のメカニズムはまだ解明されていないということも報告者は付け加えています(瀬良、2006)。