瀬良英介の一般業界向け

飼料・畜産トピックス

2006年10月 (146)

ブロイラーの処理場への出荷距離や季節による影響や死亡率

チェコ共和国のブルノ獣医薬科大学のヴェチェレックを含む5名が農業省と獣医行政局との連携でブロイラーの処理場までの出荷距離や季節変動による死亡率などの大掛かりな確認調査を行いました。報告にある結論の一部を下記に紹介しましょう。

 

  ブロイラーが処理場に運ばれる途中で死亡、或いは、到着時点かその直後に死亡するのは、ブロイラーをトラックに積むときや輸送中のブロイラーを扱う条件の質(ウエルフェアの質)の指標になると云われています。チェコ共和国では1997年から2004年の8年に渡り追跡モニター調査を行ってきました。

 

  結論としては、ブロイラー全体の死亡率は0.247%でしたが、処理場までの輸送距離が最大50kmまでの場合は0.146%、輸送距離が300km以上になると0.862%でした。また、輸送中のブロイラーの斃死は夏場の6月、7月、8月の3ヶ月が特に高く、冬場の場合は、12月、1月、2月の3ヶ月の斃死が高かったのです。

 

  この調査は第一期を1997年から2000年とし、第二期を2001年から2004年としていますが、それぞれ距離を5区に分け、50km以下、51〜100km、101〜200km、201〜300km、300km以上としています。距離については、50km以下を除き処理場に着いたときの全体の死亡率は0.224%から0.265%へと増えていますが(指数1.18)、これは統計的に有意差有り(P = 0.000)と指摘しています。輸送時間が4時間以下の場合の死亡率は0.156%でそれよりも長時間になると死亡率は0.283%でした。研究者グループは、積み込み時の手荒な作業でブロイラーが傷つくことや道中の気温などミクロの気象条件(microclimate conditions)や積み込み密度などによっても距離との関係において死亡率が高まることを指摘しています。

 

  研究者グループは二回に渡っての長期モニター調査の結果で死亡率が増えていく傾向にあるというのは問題であるとしています。輸送距離が長くなるにしたがい、ブロイラーの出荷状態は悪くなっていると指摘しています。出荷輸送時のウエルフェアの質が悪くなるのみならず、ブロイラー生産者の利益の観点からも損失であるとしています。更に、ダメージを受けたブロイラーは、モモ肉の色にも影響を与え、黒ずんだ硬い乾いた肉が増え、ブロイラーの屠体のキャンピロバクターやサルモネラの菌数が高いレベルになることを指摘しています。

 

  報告自体は4ページと図3点からなる長文な論文ではありませんが示唆に富んだ報告です。詳細に関心のある方は米国家禽学会誌(2006 Poultry Science 85:1881-1884)を参照なさることをお勧めします。

 

  余談ですが、このような追跡モニター調査をチェコ共和国が自国の獣医薬科大学と協力して行った結果は大変に面白いと思います。チェコのブロイラーの輸送距離が50km以下の死亡率が0.146%ということは、出荷羽数1万羽当り約25羽が死に、輸送距離が300km以上の死亡率の0.862%ということは出荷羽数1万羽当り約86羽が死ぬということです。

 

日本のブロイラー飼育管理や処理場までの輸送管理の内容は極めて優れていると云われています。然し、九州から本州中部にかけて今後さらに上昇すると予想されている夏場の極暑と高湿度、温暖化とは云え冬場の寒気の中での出荷条件と死亡率や肉への影響はどうでしょうか。北海道でも以前よりは夏場の気温が異常に高くなり冬場の気温が通常よりも下がることがありますが、その地方のブロイラーの出荷条件と死亡率や肉への影響はどうでしょうか。

 

日本のブロイラー輸送はシステムとしては極めて高いレベルのものが出来上がっていると思います。然し、下請けのトラックが平ボデで輸送するときの状態や処理場の受け入れ作業が解体や箱詰めの関係で遅れ気味のときに極暑の環境下で長時間駐車して荷下ろしを待っているトラックの状態はどうでしょうか。トラックの荷台に風が当るように何台もの大型扇風機や放水機などを設置している処理場の駐車場もありますが、横に並んで待っているトラックによっては風も当らず、湿度のみが上昇する極めて暑い環境状態かもしれません。トラック上のブロイラーの飲水や餌切れと輸送ケージの密度との関係などで死亡率が高まり、肉の品質低下やムラが出ることも時折あると思います。

 

チェコ共和国のようにウエルフェア(米国では動物愛護とも解される)も懸念の対象ですが、同時に、大型の生産インテグレーターや付加価値をつけた肉鶏を家族経営で生産している農家グループの経済損失にもなることがあるのかもしれません。それは、死亡率という数字だけでは判らず、肉の価値や評価が色々な意味で下がることも含まれるかからです。少なくとも基本的な蛋白質(アミノ酸)の栄養給源とし大豆ミールと穀類を適切に与えていても本報告にあるようなことは起きます。その場合、バランスの良い飼料給与自体も最終的には間接的な損失になります。その意味でもチェコ共和国の報告は、優れた日本のブロイラー生産産業に対しての今後に示唆を与えてくれているのではないかと思います(瀬良、2006.10.)。