瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2006年11月 (147)
米国では上位50農協が全米の原乳出荷の8割を司る
協同組合形式の農協は、とやかく批判の対象にさらされることがあります。それは、米国においても日本においても然りです。米国の農協は以前の拙稿や講演でも指摘したことですが、コンシューマー・オリエンテッドな発想と制度を多面的に取り入れていく過程で経済活動では競争力をつけながら消費者一般の要望に応える農協組織に替わってきました。それは単純、或いは、多面的プロデューサー・オリエンテッドな発想からは大きな変換となり、一部では変化の過程で痛みを伴いました。
2005年の50農協(約48,000会員農家戸数)の原乳出荷扱いが約6500万メトリック・トンですから、全米の生乳生産のほぼ8割に対して直接的、或いは、間接的に関与し影響を与えていることになります。 以前は民間の酪農・乳製品業界の処理加工施設が飲用向けに原乳を買い付け、処理販売を兼ねるのが主流でしたが、近年では、発想を前向きに転換した農協組織が酪農経営者の出荷する原乳の8割を買い付け、相当量の原乳を飲用向けと製品向け双方のマーケッティングを扱うようになりました。
上位5農協の名前は、(1)デーリィ・ファーマース・オブ・アメリカ、ミズーリ州カンサス・シティ、(2)カリフォルニア・デーリィズ・インコーポレーテッド、カリフォルニア州アルテジア、(3)ランド・オ・レークス・インコーポレーテッド、ミネソタ州セントポール、(4)ノースウエスト・デーリィ・アソシエーション、ワシントン州シアトル、(5)デーリィリー・コオペラティブ・インコーポレーテッド、ニューヨーク州シラキュースです。農協組合員総数の出荷量や組合農家戸数などの詳細は割愛します。
数値などにも興味のある方は、米国版ホーズデーリィマン誌(2006.10.10)や米国版インターネット購読版を購読されている方は、それを御覧になるとよいでしょう。また、同じ内容は日本語訳の同雑誌にも掲載される筈です。
この報告はバージニア工科大学のマーストーラー女史の努力が大きく、ホーズデーリィマン誌の編集にも参画している方ですので、女史による上位50農協の出荷動向として掲載されています。ただ、2005年の組合出荷量や組合会員農家戸数には実際とは違いが出る場合があります。何故ならば、雑誌社の情報収集のためのアンケート回答は2006年夏に受領するようになっている関係で、個々の農協の年度会計がすべて12月31日で終わる暦年会計ではなく、他の会計年度月を使っている場合があるからです。この点は、女史の報告でも指摘されています。
また、同様の他の報告は農協関係広報誌、州立大学や他の酪農専門機関誌にも載っていることを指摘しておきますが、ホーズデーリィマン誌の女史の報告は簡潔によく纏められています。
余談ですが、米国の農協がここまで出荷量を司るようになったことは、酪農や牛乳・乳製品産業のなかで如何に消費者の要望に応える努力を農協がしてきたかということを指摘できると思います。時代の流れの中で逆転する可能性も多いにありますし、逆転できる可能性が残されている社会は健全であると思います。根本は経営競争をする基本的な土台を考えたとき、民間経営と農協経営の場合、民間経営の株主が保有する株数と農協組合員個々に与えられる一票の投票権を除いては、ほぼ同格にしている点が重要なことなのかもしれません。近年では、組合員個々の投票権も農協を経営する決定内容事項によっては、農協の運営を農家から委譲されている組織の運営決定部門が、理事農家に図りながら内容の重要性に応じて内規を変えてきている点も農協組織が競争力を回復してきた点として挙げられると思います。
前述の競争による結果は個々の飼料会社についても同じことが言えます。更に、農協組織が原乳調達、処理加工、出荷販売などを行う場合、生乳生産量と関係の深い飼料のような他の関連分野も合わせて扱っている部門では、独禁法に触れる言動や行為があったとする証拠があげられた場合、処分が非常に厳しいことでも知られています。この厳しさについては農協に対しても民間企業に対しても同じ扱いになります。そうは言うものの、この辺りのことになると、農村地域社会での農協に対しての認知や受容の寛容度が若干高めになる傾向もありますが、この辺りのことについては、過去のトピックス(拙稿)や講演などでも原稿のタイトルに関係なく触れた箇所がありますので御存知の方もあると思います。
いずれにせよ、全米の2006年の生乳生産量は、推定約8270万メトリック・トンですが、2007年の生乳生産量は、推定約8350万メトリック・トンで微増になり、牛肉や牛乳・乳製品の消費も微増するとする業界予測が多いです。ただ、卵、エビや海の魚類の消費者価格は前年比で4〜5%ほど上昇するという予測も多いので、観点を変えると農協組織が経営努力の中で伸びる機会を持っているとも云えるでしょう。消費者の異なるニーズに対応し、切磋琢磨しながら開発する努力は農協であれ民間であれ良いことです(瀬良、2006.11.)。