瀬良英介の一般業界向け
飼料・畜産トピックス
2006年11月 (148)
馬の栄養における近年の進歩
馬の飼養で過去10年ほどの間で最も進歩したのは、以外にも馬の要求量を満たすためのエネルギー、蛋白質、ビタミン、ミネラルの量ではなく、むしろ、それらの栄養類を供給するために使われる飼料・飼料原料であると指摘しているのはフロリダ大学のワーレン教授です。
ワーレン教授は、馬という生き物は全ての動物と同じように最大のエネルギー(カロリー)は体の機能維持のために使うのだと先ず指摘しています。働く馬には競走馬も入りますが、何らかの仕事をする馬、繁殖用の馬、成長中の馬などは与えられている飼料の全てが粗飼料の場合、エネルギーが往々にして足りないということが判っています。伝統的には、そのような場合、エネルギーを上げるために穀類(濃厚飼料)を使ってきました。確かに穀類(濃厚飼料)は入手が容易ですし、相対的に見て安価であることで知られています。然し、近年、より多くの研究者や馬のオーナー(飼育者を含む)は、馬に穀類を与えたときに起きる諸問題に気付いてきています。結果として、馬の消化機能や今日の馬のライフスタイル双方の観点から両立し得るような飼料・飼料原料を見つけることに強い関心と焦点があてられてきています。
ワーレン教授は前述のような指摘をし、それを理解するのに役立つ消化器官の仕組み、澱粉の消化、穀類(濃厚飼料)多給がもたらす健康上のリスク、飼料中の穀類を最低限にする必要性などについて述べ、馬に適した飼料原料を探し出すことにも触れています。
大変に含蓄のある論文ですので詳細は割愛しますが、指摘点のいくつかを御紹介しましょう。
家畜の栄養生理の専門技術者や研究者は周知のことですが、飼料関係の開発販売やセールス、馬を飼養する現場の方々には、違った角度から物を見る点もあるので関心のある事柄でしょう。
馬の消化器官:馬は草などの粗飼料を少量づつ一日中食む動物として進化してきましたので、高繊維飼料と連続して食べる行動は馬の消化器官の構造や機能に反映されています。例えば、馬の体積に対して胃は約12リットル以下と小さいので少量づつを頻度多く食べるのに向いています。胃の内容物が小腸を通過するのは約3時間以下から6時間程度と相対的に早いのですが、この小腸内では蛋白質、澱粉、糖類などが酵素などにより消化を受けるのです。そして、胃と小腸(消化管前部)は、馬の全消化管の35%しかないのです。馬の消化管の最大の部分は消化管後部ですが、それは盲腸と結腸(大腸)の部分で全体の消化管の65%を占めています。この部分では摂取した内容物は約24〜36時間という最も長い時間留まることになりますので、そこに生存している微生物が内容物の繊維の部分を消化することになるのです。したがって、馬はエネルギーの約60〜100%を消化管後部にいる微生物の消化発酵により生産される揮発性脂肪酸から得るのです(Glinskyら、1976)。
馬の消化管前部が小さいという事実が大量の飼料を一回で与えたときに簡単に消化機能をはるかに超えてしまう問題を起すことにつながります。飼料の組成にもよりますが、未消化の飼料が消化管後部に入ると多量でコントロールの出来ない微生物発酵(注、瀬良:異常発酵とも云える)が起きやすくなり、色々な消化不全の問題を呈してきます。前述のように、馬の消化管は繊維が豊富な飼料を絶え間なく多く取り入れて消化するようにつくられています。したがって、充分な量の繊維が馬の飼料に入っているということは、消化管後部の健全な機能や消化のためには大前提となります。、
澱粉の消化:初期の馬の飼料というのは高繊維の粗飼料が主体でした。近代の馬の飼料には穀類(濃厚飼料)が使われ、澱粉の含有割合は50〜70%にもなります。馬が家畜化され種々の用途に使われるようになり、飼料にはより多くのエネルギーが必要になりますが、それは馬の作業で使われるエネルギーのコストをカバーするためです。穀類には粗飼料のエネルギーの1.5〜2倍ものエネルギーが入っていますから、穀類が好んで使われるようになるのです。今日では、競走馬に与えられる飼料総量の60%かそれ以上が穀類であることは珍しくありません。授乳中の母馬や成長中の馬の飼料もかなりの部分が穀類です。
確かに馬は穀類中の澱粉を消化する機能を持っています。然し、他の単胃動物に比べて馬は小腸でのアミラーゼ(酵素)の活性が低いのです(Kienzleら、1994)。結果として、小腸での澱粉の消化は、給与する特定の穀類、穀類の処理方法、与える量や摂取速度、粗飼料給与の時間や回数、そして個々の馬の変動、つまり、それらについての傾向などによるところが出てきます(Kienzle, 1994)。簡単に言えば、とうもろこしや大麦に比べ、えん麦の澱粉の多くは小腸で消化されます。処理方法(圧片、クリンパー処理、粉砕など)は小腸での澱粉消化を高めますが、それは穀類の表面積が高まるために小腸での酵素による澱粉消化が高まるからです。また、澱粉の摂取が増えるにしたがい、小腸での澱粉の消化は下がりますが、それは小腸での通過速度が高まるからです。最後に、澱粉の多い飼料を与えた後に粗飼料を与えれば、内容物の通過速度は速まりますので、結果として小腸での澱粉の消化は下がります。
消化管後部に生息する微生物は小腸の酵素で消化されなかった澱粉や糖類を素早く発酵させます。澱粉の量が少なければ消化管後部に生息する微生物類の微妙なバランスを崩しません。然し、多量の穀類を与えれば小腸での消化機能を簡単に上回り、余剰の澱粉が消化管後部に入ることになります。消化管後部に生息する微生物が速やかに澱粉の発酵を促進する結果、乳酸が蓄積され始め、内臓環境が酸性に転じますので微生物が死ぬということにつながり消化不良を起します(Radickeら、1991)。
容認できる澱粉量は穀類の種類は処理方法によって異なりますが、いくつかの目安は提示されています。消化管後部へ余剰が流れ込むのを最低限にするのには、一回の給餌で与えられる澱粉の最大量を生体重1キロ当り3.5〜4グラムにするのが良いと提言した研究者(Potterら、1992)が居ます。然し、カデフォード(Cuddeford, 1999)は他のいくつかの研究ではもっと低い数値である生体重1キロ当り2グラムの澱粉量が支持されているとしています。このことは、もし穀類の澱粉含量が50%である場合、消化管後部に顕著な澱粉のオーバーフロー(過剰状態)を起させないための最大穀類量は生体重1キロ当り4グラム、又は、体重500kgの馬には最大2キロということになります。色々な活動や働きをする馬、繁殖・授乳馬、成長馬のエネルギー要求量は、相当量の穀類を給与しなくてはならないほど高いので、一日あたりの給餌回数が僅かに1回か2回ということですと澱粉消化の限界を簡単に超してしまいます。
穀類多給に伴う健康上のリスクなどの詳細は割愛し、穀類給与を最低限に落とす点についての指摘の一部を合わせて紹介しましょう。ワーレン教授の指摘では、近年の傾向としては穀類を減らす手段として油脂を使うことのみよりも消化性の高い繊維、例えば、ビートパルプや大豆のハル(豆皮)を給源として使う関心が高まっているとしています。ビートパルプは馬がよく利用でき、エネルギー含量はえん麦に比べて遜色がありません(Lindberg & Jacobsson, 1992)。同様にオットとキヴィペルト(Ott & Kivipelto, 2002)は、離乳時の馬に与えているえん麦主体の穀類ミックス中のえん麦の25%を大豆ハル(大豆の豆皮)で置き換えたとき、成長反応は同じようなものであったと報告しています。ビートパルプも大豆ハルも繊維レベルは高いのですが、どちらの原料も馬の消化管後部で楽に発酵できる消化性の高い繊維を含んでいるということです。容易に発酵する繊維を使う利点は穀類に近いエネルギー含量を持っていることと同時に澱粉含量が低いために消化不良や代謝障害を起すリスクが少なくなるということです。
ワーレン教授は多くの馬用飼料の主な原料は穀類であることを認めつつも、澱粉や糖類が高い飼料を馬が摂取すると消化性や代謝性障害を起しやすい内因的なリスクがあることを強調しています。結果として、飼料原料の選択を消化の両立性という観点から捉える動きが出てきているとしています。油分を含む飼料、ビートパルプ、大豆ハル(豆皮)は澱粉や糖類が低く、粗飼料で供給されるエネルギー以上に馬がエネルギーを必要とする場合の代替原料として有用であるとしています。加えて、安定した組成分を持つ高繊維飼料は、炭水化物に対して敏感(過敏性)になっている馬の飼育には不可欠な原料であるとしています。
冒頭でも触れましたが、詳細に興味のある方はフロリダ大学のワーレン教授(L. Warren, Univ. of Fla.)と一連の南東部栄養コンフェランス(Southeast Nutrition Conferences)を御覧になるとよいでしょう。
余談ですが、日本での競馬人気は相当なものです。人気の原因はインターネットやテレビの影響も大きいですが、話題性を持った競走馬と騎手が国内外で相応の活躍をしてきたこと、また、競馬場で馬券を買う以外にも場外馬券の購入にも関心が高まったことがあります。シーズン中には何々杯という大きな競馬がいくつもあります。僅か数分で終わる競馬以外に馬の飼育や苦労話を含め周辺情報に一般の関心が高まったことも事実です。その背景には、視聴率を気にする数多くのテレビ・ラジオ局が数多くの特集を放送・放映したことからも明らかです。
その反面、地方競馬場では経営の面から馬場の運営を打ち切るところも相当数出ました。北海道の場合は、農耕馬が重荷を引く伝統的な競争に対して根強い人気があり、ペルシュロン種やその他の農耕馬が競技に出られる馬場がありました。これらの馬場も経営という面から赤字を埋める手段にも限界に達したという判断が強くなりました。恐らく最終的には帯広市の馬場も最終的には閉めることになる可能性が大なのかもしれません。馬場運営は、他のイベントやプロジェクトと支えあってでも運用することが難しいのであれば、地方行政側としては残念な決定をしなくてはならないのでしょう。
経済が上向きになってきているという報道を信じれば、恐らく競馬の人気は下がらないでしょうし、コンパニオン・アニマルとして飼育するポニーや馬と遊べる乗馬クラブや飼育クラブもそれなりに増えるでしょう。馬肉生産のための飼育もヨーロッパの一部の国同様に根強いかもしれません。そういう環境の中でビートパルプや大豆ハル(大豆の豆皮)を必要とする飼料製品は、地味かもしれませんがマーケッティングの内容と影響により、相応に増えると考えてよいだろうと思います(瀬良、2006.10.)。