アメリカ大豆協会

バイオテクノロジー
我々の生活を豊かにする科学の奇跡

ティム・クプカ博士
アイオワ大豆協会 生産技術部長
第15回 アメリカ大豆協会品質展望コンファレンス 1999/12/02

はじめに

現代の植物学は、人類に対し、ヒトの健康や生産性を劇的に改善する機会を、遺伝的に価値を高めたグレイン・プロダクツの慎重、且つ、責任ある使いかたを通して提供する。(注・瀬良:Grain Products = 穀類や油種子とその製品。グレインは、通常、穀類を指すが、最近では、広義において油種子も含む場合がある。) 本講演の目的は、現在、市場に出現しはじめているいくつかの価値を高めたグレイン・プロダクツの概要を簡単に示し、それらが一般消費者に提供する健康上、或いは、工業上の素晴らしい利点について述べることである。

高オレイン酸大豆ととうもろこし(High Oleic Soybeans and Corn)

遺伝子組み替えによりオレイン酸含量を上げるようにした大豆の油分は、コモディティ大豆(通常の原料大豆)の油分よりも飽和脂肪酸量を有意に30〜40%下げる。このような大豆のオレイン酸含量は、24%から80%以上へと劇的に増やす。オレイン酸は熱安定性の高い一価不飽和脂肪酸であるが、悪玉コレステロール(LDL)を下げ、善玉コレステロール(HDL)を上げることで知られる。加えて、オレイン酸は多価不飽和脂肪酸ほど早く酸化臭(Off Flavor と Go Rancid)を出さないので、素晴らしい品質を維持しシェルフ・ライフを伸ばすことができ、結果として水素添加の必要性が無くなる。多価不飽和脂肪酸が水素添加処理を受けるとトランス型脂肪酸が作られる。トランス型脂肪酸は、ことによると、より心臓病を起こす危険性が飽和脂肪酸のそれより高いとの医学分野での研究が示されている。

トップ・クロスのとうもろこしのハイブリッド(雑種)でオレイン酸含量の高いものが2000年には市場に紹介される。高オレイン酸のとうもろこしを養豚や養鶏(注・瀬良:肉豚やブロイラー)に与えた場合、屠体の品質は、フレーバー(風味)と処理の観点から非常に改善された。屠体には絞まりがあり、脂肪組成はよくなり、消費者が食味テストで好む新鮮な風味が備わる。屠体処理業者は、このような屠体を好む。何故ならば、廃棄する部分が減り、また、処理速度が速まり、楽に処理出来るようになるからである。

高オレイン酸とうもろこしのハイブリッドは、次の3年から4年で、コマーシャル向けに大量に入手出来るようになる。また、研究データが示すところでは、高オレイン酸ハイブリッドは、他の選びぬかれた高油分のハイブリッドと比べても、イールド(収量)、全体の生産・耕作特性(Agronomic Characteristics)、油分含量、蛋白質含量が同等である。ただ一つの違いは、高オレイン酸ハイブリッドのほうが市場においてより高い価値の製品をつくることが出来る。このことは、農家が現状の生産方法に追加の危険性(リスク)をほとんど加えることなく、より価値の高い作物生産が出気ることを意味している。

高オレイン酸大豆油の幾つかの特性も色々な工業製品への利用では重要な利点を提供する。

高スクロース(蔗糖)大豆(High Sucrose Soybeans)

今後登場する「付加価値のある」バイオテック作物(実質的に同等でない)は、従来の作物と成分、栄養において異なるため、表示されることになる。 一方、実質的に同等なバイオテック商品の義務表示により、現在出回っている実質的に同等な(上記に述べたように従来のものより安全である)バイオテック作物の消費減少を引き起こすことが既に実証されている。

もう一つの付加価値を付けた大豆は、高スクロース大豆(HS)である。この大豆は、通常の原料大豆(コモディティ大豆)と比べ、不消化の糖類、例えば、ラフィノースとスタキオースが最大90%も低い。人間や動物は、これらの糖類を消化出来ない。結果として、不消化の糖類は小腸に移行し、腸内細菌により発酵過程のなかで分解される。この発酵過程で生成される副産物は、二酸化炭素、メタン、及び、水素ガスである。この状態は、腹部が張った不快感、痛み、鼓腸(ガスが胃や腸に溜まった状態)を引き起こす。新しい高スクロース・テクノロジー(技術)は、食品製造業者や消費者に対しコスト的に有利で健康的な大豆ミールを、マイナスの作用をもたらすことなく、食事のなかに相当に増やして使ってもらうことが可能になる。

最近の米国食品・医薬品管理局(FDA)の報告では、一日一人当り25グラムかそれ以上の高品質大豆蛋白質を食事に取り込むとコレステロールのリスクと心臓病を減らすという指摘がある。他の研究で示唆されていることは、大豆ミールやアイソレート(注・瀬良:Soy Isolate=通常、繊維状大豆蛋白質で蛋白質含量が90%前後ある)を食べていると骨に由来する疾病、月経閉止期(更年期)の諸症状、また、ある種の癌、特に、乳癌と前立腺癌を減らす。私どもは、もっと大豆蛋白質を食事に取り込み、健康で生産的な生活を送らなくてはいけないのではなかろうか。高スクロース大豆のもう一つの利点は、マメ臭さが(Beany Flavor)少なく、甘味があるので、多くの消費者にとって魅力的である。

低飽和脂肪大豆(Low Saturated Fat Soybeans)

LoSatSoy(ローサットソイ)で知られる低飽和脂肪大豆は、既に、ここ数年間、コマーシャル的に入手可能である。製品の中に使うと、通常の大豆油の風味と一貫した密度などに何ら変化なく、飽和脂肪のみが50%下がる。

LoSatSoy(低飽和脂肪大豆)の飽和脂肪は、広く健康上の利点で賞賛の的になっているカノーラ油の低飽和脂肪のレベルと同等であり何ら遜色ない。加えて、LoFatSoyは安定性が高いので水素添加を必要としない。したがって、結果としてトランス型脂肪酸が含まれず、心臓の健康に大変に良い製品になっている。

製薬関係のバイオテクノロジー(Pharmaceutical Biotechnology)

バイオテクノロジーのお陰で、最近、革命的な一連の新しい薬品がコマーシャル化された。遺伝子を切り取り製品に使う場合、増殖の早いイースト(酵母)やバクテリア(細菌)に組み込むことは、これらの新しい薬品を経済効率よく高生産することを可能にした。このテクノロジー無しでは、数百万人の人たちが、現在では、コントロールが可能な病気からの不必要な苦しみを受けねばならなかった。

幾つかの例:
  1. エンブレル(ENBREL)は人間が作り出した蛋白質であるが、サイトカイン(Cytokines)という蛋白質がヒトの関節の結合組織を攻撃するのをブロックし(防ぎ)、痛みと腫れを押さえる。この治療法は、リューマチ様関節炎の諸症状の抑制に対し、完全に新しく、また、より効果的な方法である。
  2. ニュウメガ(NEUMEGA)は、ヒトのなかにある血小板成長因子であるインターロイキン・11の組替え態である。化学療法による抗癌治療を受ける癌患者の半数は、治療の期間中、ニュウメガを投与される。抗癌治療中に、ニュウメガの投与無しでは、血液細胞数の減少が酷く、治療が継続出来ず、多くの癌患者は助からない。毎年、ニュウメガは何万人という癌患者の命を救っている。
  3. インファゲン(INFERGEN)は、自然にはないバイオエンジニアリングで作られたインターフェロン・I型であるが、慢性C型ウィルス肝炎の治療に使われる。C型肝炎ウィルスは、潜行性(深く静かに)、且つ、進行性の血液由来のウィルスであるが、何年にも渡り、場合によっては何十年にも渡り、肝炎だという特定の症状を現すことなく、肝臓に損傷を与えるものである。症状が現われたときは、通常、炎症は非常に進行しているか、肝硬変(Cirrhosis)を起こしている。症状としては、食欲減退、おう吐、胃痛、疲労、そして、稀なケースとしては、黄疸(眼球の白目や皮膚が黄色になる)を起こす。これらの症状は、一般的に見受けられるし、重い症状ではないので、往々にして、見過ごされたり誤診されることがある。
  4. ニュウポゲン(NEUPOGEN)は、低好中球(白血球)症(Neutropenia)の治療に使われる。癌患者が骨髄移植を行ったときや、ある種の化学療法(Chemotherapy)による抗癌治療を行ったときの感染を押さえるのに使われる。何が低好中球(低白血球)症(Neutropenia)を引き起こすのか?ある種の血液の病気、例えば、白血病やウィルス感染がそれを引き起こす。場合によっては、薬の副作用(例えば、精神分裂症{Schizophrenia}、うつ病{Depression}、エイズ{AIDS})やある種の毒物にさらされているときに起きる。低好中球(低白血球)症(Neutropenia)が最も頻繁に起きるのは、化学療法による抗癌治療(Cancer Chemotherapy)のときである。何故ならば、癌細胞を殺すために使われる幾つかの薬物は、好中球(Neutrophils)も破壊してしまうからである。{注・瀬良:白血球(WBC=white blood cell、或いは、white blood corpuscle、又、 leukocytesとも呼ばれる)は、通常、1mm3[1ミリ立方]当たり4000-9000個あり、好中球(neutrophils)は、白血球分画の中では40〜60%と最も多く存在する。初期感染のときに戦う白血球である。  他の白血球の血液像としては、リンパ球(lymphocytes)が30〜45%、好酸球(eosinophils)が1〜5%、好塩基球(basophils)が0〜1%、単球(monocytes)が4〜10%ある。 赤血球(RBC=red blood cell、或いは、red blood corpuscle、又、erythrocytesとも呼ばれる)は、1mm3[1ミリ立方]当たり、男性で400-550万個、女性で350-450万個ある。血小板(PL=platelets)は、1mm3[1ミリ立方]当たり20万〜40万個である。}
バイオテクノロジーを利用した工業用製品
(Industrial Use Products From Biotechnology)

工業用製品にバイオテクノロジーを使うということでは重要な研究が行われている。下記に、そのうちの2例を紹介する:

  1. 不凍蛋白質(Anti Freeze Proteins)は、ある種の昆虫、植物、或いは、冷水魚に存在するが、生物学的物質を冷たい温度、或いは、凍結温度で貯蔵するときに破砕が伴う場合、それを防ぐのに非常に効果的である。これは、幅広く細胞、生物組織や生物器官などを低温(hypothermic)、或いは、冷凍保存(cryogenic preservation)するときに有用であり改善される。この方法は、冷凍食品のきめ(食感)、濃度や硬度を改善するので、化粧品への応用も出来る。もう一つの応用は、腫瘍の外科的治療に使う低温、又は、凍結手術に使える。
  2. 魚成長ホルモン遺伝子(Fish Growth Hormone Gene)は、自然にある成長ホルモンであるが、鮭(さけ)、鱒(ます)、テラピアを使って増幅したものである。増幅された遺伝子を使った魚の場合、同じ種の魚に比べ成長が400%〜600%増加する。これは、コマーシャル・ベースで行う水産養殖事業にとっては大変な経済的利点があり、同時に、高品質蛋白質を経済効率よく世界に供給することが出来る。
バイオテクノロジーを利用した食品加工用製品
(Food Processing Products From Biotechnology)

いくつかの大変に有用な製品が食品加工製造業界向けに開発された。それらは下記のようなものである:

  1. 遺伝子組み替えによるイースト(酵母)でカイモシン酵素(Enzyme Chymosin)、別名、レンニン(Rennin)を生産。カイモシン(注・瀬良:キモシンとも発音する。)は、チーズの生産には無くてはならないものである。数千年もの間、それは屠殺した若牛の真胃(第四胃)から回収された。世界の数多くの国々は、1990年から遺伝子組み替えによって作られたカイモシンの利用を認めた。この方法により、純粋なカイモシンを大量に生産することが可能になり、コストでは古い方法に比べ格段に改善された。今日では、世界で生産されるハード・チーズの60%は、合成カイモシンを使って作られる。この製品は、ヨーロッパ全土で生産されるチーズには、極普通に一般的に使われている。
  2. 遺伝子組み替えによるイースト(酵母)がワインの品質や風味を改善。天候が不順で冷たく雨の多い年の葡萄は、収穫期でも熟しておらず、それから作られるワインはリンゴ酸(Malic Acid)が多いために非常に品質の悪いワインが出来てしまう。最近、遺伝子(Gene)が特定隔離され、クローニング(注・瀬良:クローニング=Cloningは、特定の遺伝子を含むDNAを生細胞、一般的には大腸菌、酵母菌などの微生物に入れて増殖すること。)でワイン用のイーストが作られたが、これによりイーストは高レベルのリンゴ酸をエタノールに変換する。リンゴ酸(Malic Acid)が、ワインに苦味(Bitter Flavor)をもたらす化学物質である。 少量のリンゴ酸はワインにとって良いが、大量に存在すると風味を台無しにする。ワインを楽しむ消費者たちは、この新しいテクノロジーのお陰で経済効率よく生産される高い品質のワインの利点を享受する。
終わりに

本講演で触れたテクノロジーの特質や可能性のある利点は、これから数年の間にコマーシャル化される驚くべく新しい製品のほんの僅かな例に過ぎない。バイオテクノロジーの特質を開発する研究開発業者は、世界の人々の生活の質を高め、より生産的で健康的になることが出来るような新しい製品を作り出し、市場に出すべくフル・スピードで進んでいる。しかしながら、これらの新製品を市場に出す努力が成功するための大前提には、我々が共に消費者に対してこれら新製品が持つ健康上の利点や環境への優しさをきちんと啓蒙教育していくことが出来るかどうかにかかっているであろう。もし成功すれば、生命科学産業の黄金時代の夜明けが始まることになる(The Golden Age Of The Life Sciences Industry Is Only Beginning)。失敗すれば何が問題になるのか?それは、世界の食料、健康、人々の生活の質(QOL、クオリティ・オブ・ライフ)が拘わっているだけである。我々は諦めるわけにはいかないし、砂に頭を突っ込んでいるわけにもいかない。今は、より良い世界を創るために、行動(アクション)をする時である。

 
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